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06 現実

テストが終わるまでの間、私は間違っても成宮に遭遇しないよう努めた。これ以上成宮の彼女を刺激してはいけないと思ったというのが表向きの理由。本当は成宮に一体どんな顔をして会えばいいのかがわからなかったからだ。成宮が私が彼女だったらいいのにと言ってくれたことと、そうは言っても結局は彼女を優先したことが思いの外効いていた。いつもこうだ。成宮はいつも私に期待を持たせるようなことを言っておいて、他所で彼女を作るのだ。私は一体あんたの何なのよと何度悩まされたことか。それでも懲りずに毎回成宮の発言に浮かれる私に救いはなく、ただ悲しい現実が待っているだけだ。友達以上恋人未満なのでは?と考えたこともあるが、奴と一緒にいて甘い雰囲気になったことなど一度もない。こればかりは私にも原因があるのかもしれないけれど。

翌週になって返却されたテストは前回よりも良いものばかりだった。万年平均点付近を彷徨っていたはずの私が、高校に入って初めて上位群の成績を収めることができた。成宮を彼女に取られた悔しさをバネにして伸びたなんて人には言えないし、我ながらこれはどうなんだと呆れている。成宮に教えるはずだった数学と英語がとりわけよくできていただけに。

テストが終わり今年度も残すところあと僅か。短い春休みを終え4月になると、私たちは高校3年生だ。

「ねえ、覚えてる?3年生になって成宮と同じクラスになれたら、なまえ自分から動くって言ったの」

放課後、特に目的もなく教室に居残ってだらだらと話している時に、友人がふと呟いた。そんなこと忘れていてくれたらいいなと思っていたのだが、そう都合よくばかりもいかない。んー、とわざとらしく伸びをして首を傾げた。

「そんなこと言ったっけ?」

「言ったよ。シラを切ろうとしてもそうはいかないからね」

指を一本真っ直ぐに立てて怖い顔をした友人に私はあっさり白旗をあげた。

「わかった、ごめんごめん。だけど私もう成宮とは友達でいるって決めたし、あの時とは状況が違うから動くもなにもないよ」

「…成宮くんに会わないよう必死で逃げまわったり、彼女に成宮くんを取られた悔しさでいつもより勉強に没頭してた人が友達なの?」

痛いところをつかれて思わずうっと呻いた。この友人に隠し事はできない。まさかそこまでバレているとは。自分の浅はかさを恥じ入った。確かにもう友達に戻ると言ったものの宣言通りには振舞えていない現状、私の言葉に説得力はない。いつまで経っても成宮の彼女のことが気になってしまっている。

「それでも…やっぱり友達だから」

成宮が私のことを友達だと思っているのならば、私は求められた役割を果たすまでだ。そう言うと友人の目がスッと細められた。

「はいはい、なまえは成宮くんの友達だね。彼女は他にいるもんね」

「そんな言い方しなくても、」

「友達が成宮くんのこと好きになっちゃダメって決まりでもあるの?」

「え?」

私の気持ちをいつも尊重してくれていた友人にしては珍しく追及が厳しく、その凄みにたじろいだ。だけど…成宮を好きなままだと自分自身がつらい。成宮には付き合っている人がいる。それでも、どれだけ隠そうと友達だと自分に言い聞かせようとも、現実は変わらない。私が叶いっこない片思いをしていることには変わりないのだということを友人は指摘している。 その追及に何も言い返せなくて、私はすっかり黙り込んでしまった。

「まあ、今はいいよ。新学期、楽しみにしてるからその時までに腹括っておくんだよ」

「…え?何それ怖い。フラグ?」

「同じクラスになる可能性だってあるでしょってこと」

もしかして何か裏工作でもしているのだろうかと思わずにはいられないほど、友人は悪い笑みを浮かべていた。新学期が恐ろしい。

△▽△


別の日、早々に帰宅しようと思いホームルーム終わりの人の波に流されているところで、今一番見たくない人を見つけてしまった。流れを逆走しようかとも思ったが、縫い付けられたように目が離せなかった。成宮がいる。胸に咲いた微かな喜びは一瞬で枯れ、すぐに後悔が押し寄せた。あれだけうっかり会わないように気を付けていたのに、どうして気を抜いた瞬間こうなってしまうのだろうか。しかもこんなに最悪のタイミングで。

人混みの先に成宮と、そして彼と並んで歩く彼女を見つけてしまった。初めて見た成宮の彼女は、すらりと背が高く、長くて綺麗な黒髪を靡かせながら歩いていた。後姿だけでも綺麗な子だなという感想を抱いた。私とは違って綺麗なその髪に静電気が起きないよう、気を遣いながら薄手のマフラーを巻いていた。何か会話をしているのだろう、彼女の方を見て楽しげに笑う成宮の横顔が見えた。

「スカート短すぎじゃない?」

ぽつりと呟いたのは敗北宣言か。綺麗なおみ足を周りに見せびらかすように彼女のスカートはとても短い。私には見苦しいからって下げるようわざわざ言うくせに、綺麗な足の彼女には何も言わないのか。彼氏の成宮は彼女に対してそんな注意をしないらしいことを初めて知った。そのくせ、どうして友達の私にはスカート丈を注意するのだろうか?新たに湧いた疑問の答えは出てこない。もしかすると成宮の発言についていちいち真に受ける私が悪いのかもしれない。

次第に、自分とのあの子とのスタイルの差のせいで僻みがどんどん加速して歯止めがかからなくなり始めた。胸がぎゅっと締め付けられ、どろどろぐちゃぐちゃに感情が渦巻く。

あの子には自分の気持ちを伝える勇気と自信があった。ただそれだけだ。だけど私はあんなにスタイル良くもないし性格だって可愛くもない、だから私には真正面から成宮に向き合って言えるだけの勇気がない。

「…好きだよ」

精一杯の勇気を振り絞った声は囁きでしかなく雑踏に紛れて自分でもよく聞こえなかった。そんな声が成宮に届くはずもない。当たり前だが、私に気付くこともなく成宮は彼女と歩いて行ってしまった。
これが今の私と成宮の距離。そう現実を突きつけられているようで、じわりと悔しさが広がる。
このセリフはあの子に貸してあげる。私じゃ到底言えそうにないから。悔し紛れでしかないことを思いながら、ぎゅっと唇を噛み締めた。やっぱり成宮のことが好きです、ごめんなさい。