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03 宣言

「うげ、何これ呪文…?」

「英語」

「こんな長い文章読めないって」

「いいからさっき言ったように和訳してみて」

好きな人だからって決して容赦はしない。勉強を教えてとお願いされたからには、ばっちりしっかり理解してもらうまでは諦めない。私だって成績は良い方ではないが少なくとも平均点は取れている。この土日に成宮に教えられるよう準備もしたし、きっと大丈夫なはず。そう意気込んだ翌週の放課後、約束通りテスト勉強をするために私と成宮は教室にいた。ちなみに、うちのクラスにいる友人に万が一見られた場合やたらと冷やかされるのが目に見えていたので、成宮のクラスにお邪魔している。
向かいの席の成宮をちらりと窺えば、成宮はうーんと唸っていた。シャーペンを握る成宮の手がすごく男の子っぽくてドキリとした。…あ、まつ毛が震えた。

「どっから手をつけたらいいわけ?」

声をかけられてはっとした。じっと見つめていたせいで顔を上げた成宮とばっちり目が合う。数回目を瞬かせた後、成宮の口角が吊り上がった。挑発的な視線を向けられる。

「何見惚れてんの」

「…見惚れてない」

「ふうん?」

「えー、じゃあ、主節と副詞節に分けて」

「みょうじ顔赤い」

「いいから、もう!」

いけない、集中しないと。事実成宮に見惚れてしまっていただけに恥ずかしい。顔が赤くなっていると指摘されて余計に頬に増してしまった気がする。少し声を荒げると、成宮は渋々といった様子で再び問題に取り掛かった。

「あのさ、主節って何?」

これは、思ったより重症かもしれない。



響くのはシャーペンが立てるカリカリという音だけ。さすがの集中力と言うべきか、最初こそくだらない話ばかりをしようとしていた成宮だがスイッチが入ったのか今は静かに教科書と睨めっこをしている。
ちなみに英語はあまりに重症だったので一度やめ、今は数学を勉強している。基礎の基礎から教えることになろうとは…。この先の道のりを思い少し眩暈がした。
するとひと段落したのだろう、成宮はぐぐっと両腕を高く上げ背中を伸ばした。

「…数学は、まあ、できるんじゃん」

手元のノートを見ると、少なくとも英語よりはという程度だがまあまあの出来のようだ。黙って手が動いていただけでも感動に値する。

「みょうじよりは」

「はいはい」

「本当はもっとできる奴に聞きたかったんだけど、みょうじしか捕まらなかったから仕方ない」

瞬間、ぴたりと手を止めてしまった。みょうじしか捕まらなかったから仕方ない。普段の軽口とも取れるその発言に上手く返すことができずぐっと喉が詰まった。ちくりと胸が痛む。

「仕方なくなんだったら、私になんか聞かなかったらよかったのに」

きっと成宮に悪気はない。そんな冗談のつもりの言葉が驚くほど私の心を傷つけた。その証拠に、ぽろりと零れた言葉は今の私の本音だった。どうして私なんかに、ただの友達なんかに。そんな捻くれた気持ちの糸が複雑に絡み合って、自分でもどうしたらいいのかわからない。

「みょうじは本当に可愛くないですねー」

そんな成宮の煽り一つにも耐えられなくて、かっと頭に血が昇った。このままじゃダメなのに。喉へとせり上がる胸の中のどろどろした感情を必死になって抑え込んでいると、成宮が不思議そうな顔をした。ごくりと唾を飲み込み、感情も一緒に胃に下ろす。

「みょうじ?」

「私が可愛くないのは、成宮が一番知ってるでしょ」

「ん?まあ、そうだけど」

なるべく平坦な声で、気にしてない振りをした。今日はいつもみたいに軽口叩かねえの?っていうのが思いっきり成宮の顔に書いてあるけど、そんなの無視無視。首を傾げながら私の様子を窺っている成宮を黙殺して、手元のノートに目を落とした。
会う度にバカみたいにケンカして、はしゃいで、じゃれ合うのが私たちだったのに。成宮が彼女を作るのはこれが初めてではないのに。どういうわけか、前よりもずっとずっと胸が痛くて苦しくて、耐え切れない。すると、恐る恐るといった感じで成宮は口が開いた。

「今日のみょうじ、ていうか最近何か変じゃない?」

「うん?いつも通りだと思うよ」

「なあ、俺なんかした?」

成宮には到底似つかわしくない絞り出すような声に驚いて顔を上げると、揺れる瞳が目の前にあった。初めて見る、悲しげな顔をした成宮がいた。もしかして私の態度を気にしてたのだろうか。

「成宮…」

「最近のみょうじは、ずっと怒ってるように見えるんだけど」

「………」

「前みたいにふざけてみてもノリ悪いし、顔怖いし、可愛くないし、スカート短いし」

「いや、何か最後の方おかしいけど」

こんな時でも人をおちょくらないと気が済まないのか君は、と言いたくなる。ちょっと心配して損したじゃないか。バンッと机を叩いて勢いよく立ち上がった成宮は、そのまま勢いに任せて私に訴えかける。

「とにかく!何か不満があったら言ってよ!俺たち友達でしょ?」

「………」

「返事は?」

△▽△


「で?友達宣言をくらって何も言えずにそのまま家まで帰ったと」

「…もう立ち直れない」

「今さら何言ってんの」

「もう私は成宮を好きでいるのをやめる」

そうだ、もう一番の友達枠を目指せばいいじゃないか。彼女になってしまったらいつか別れがくるかもしれないが、友達ならばそんなことはない。ひどいケンカでもしない限りは友達のままでい続けられる。

「なまえはそれでいいの?」

「うん。もう近頃じゃ、どうしららいいのかわからない。成宮にも勘付かれる始末だし、このままだと辛いだけだから」

だからもう、2年間引きずり続けた成宮への恋心は捨てるんだ。友人はまだ何かを言いたそうにしていたが、結局やめたようだ。それじゃあまた明日と言って電話を切った。
これで第三者への宣言もした。残りの高校生活は辛い思いをし続けるんじゃなくて、友達だと割り切って成宮と接する。大丈夫、少しずつでいいから。元の友達に戻るだけ。
しかし、人がそんな決意をしたことを知ってか知らずか(いや、知るわけはないけど)、次の日から少々困った事態に巻き込まれる。