どうしようこの人かわいすぎる

「試合お疲れ様」

「…え、あっ!みょうじ!」

少し離れたところから東条くんに声をかけると彼は弾かれたように顔を上げて振り返った。
そして私を見つけた瞬間ぱああっと綻ぶような笑顔になった東条くんに、こちらもつられて笑顔が零れた。

「どうしたの?今日来るって言ってたっけ?」

「こっそり観に来てたんだよ。ヒット打ってたね」

「え、何回から?」

「初回から」

「うわあ、ありがとう…!何か元気出た」

私自身が彼氏の勇士を見たくて来たのに、こんなに喜んでもらえるなんて思わなかった。これだけでも十分来た甲斐があった。

「元気出たって落ち込んでたの?」

「…いや、落ち込んでたっていうか、自分の課題が見えた試合だったからちょっと考え事してた」

「東条くんは真面目だね」

普段東条くんのことをよく人に懐く犬系男子だと言って可愛がっているからか、たまにこうして真面目なところや悩んでいる姿を見るとちょっとどきまぎしてしまう。
いつもと違う表情というのに私はとても弱い。
だから試合に出ている東条くんは本当に本当にかっこよくて、ずっと彼から目が離せなかった。
見慣れないユニフォーム、真剣な表情、東条くんの一打で一気に盛り上がる会場。

本当に私の知っている東条くんなのかって何度も疑うくらいグラウンドに立つ彼は別人だった。
だから声をかけた時、いつもの東条くんだったからとてもホッとした。

「あ、みょうじ日焼け止め塗ってないだろ」

「ちゃんと塗ったよ」

「首のとこ焼けて赤くなってる」

「え、うそ」

長時間直射日光にさらされるから対策はきちんとしたはずだったのに、汗で落ちてしまったのだろうか。
確かに少しひりひりして痛いような。

「せっかく綺麗な肌してんだからちゃんとしなよ」

「…お母さんですか」

「返事は?」

突然説教モードに入った東条くん。前から思ってたけど彼はかなり過保護だ。
おざなりな返事をすれば一応彼の気は済んだらしい。気を付けなよと念を押されてお説教は終わった。

すると東条くんの背後から野次が飛んできた。

「いちゃいちゃしてんじゃねーぞ東条!」

「わ、はい!すみません!」

彼の体越しにちらりを声の方向を見ると、ちょっと不良っぽい鶏冠頭の人が怒っていた。

「そんな怖がらなくても大丈夫だよ。優しい人だから」

「そうなの…。あ、ごめんね、もう向こうに合流しなきゃいけないよね」

気付けば結構な時間東条くんを引き止めてしまっていた。きっと今からまた今日の反省会や自主練があるのだろう。

「あ、みょうじ」

「ん?」

「今日は来てくれて本当にありがとう。…もしよかったら、また来て。でも今度は連絡してから」

「うん。こっそり来たのダメだった?」

「そうじゃなくて!…みょうじが見てるってわかってたら、やる気もっと上がるし、その…」

ゆっくりと言葉を選びながら話す東条くん。心なし頬が少し赤らんでいる。

「その、…みょうじのために打つから!じゃ、じゃあまた!」

そのフレーズはどこかで聞いたことがあるような。案外ベタなことが好きなんだね、東条くん。
あっと言う間にチームへ合流した東条くんの背中を何も言えずに見送った私は一人吹き出しそうなのを堪える。

予想外に大きな声での宣言だったためか、チームメイト(特にさっきの怖そうな先輩)に散々からかわれているのが見えた。
私の彼氏は一体どこまで可愛かったら気が済むのだろうか。
そんな彼を必ずまた応援しに来ようと心に決めた。

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