正直こういう展開を待ってました

※きゅんって音がするらしいですの続き。春市視点。

どさくさに紛れて彼女の手を取って、そのまま大事に握った。
いつの間にか自分の方が大きくなっていた手。なまえの小さな手。
僕はずっとなまえのことを女の子として見てたって、気付いているのかいないのか。

「私、青道行きたかったんだよね」

なまえの学校から家までの帰り道、ぽつりとなまえが呟いた。

「え、そうなの?初めて聞いた」

「だって初めて言ったもん」

眉を顰めて頬を膨らませるなまえ。拗ねている時の癖だ。

「本当は二人と一緒の学校行きたかったんだけど、そんなこと言えなかったんだよ」

「へえ…初耳」

「だから言えなかったんだって」

「どうして?」

いつでもハッキリとものを言うなまえなのに、言わなかったのではなく言えなかったというのは珍しい。
どうしてと尋ねるとなまえは何かを言おうとして口を開いてはすぐに閉じる。どうやら言葉を探しているらしい。

「勝手に出て行ったくせに」

「え!どうしてそうなるの?」

「私のこと、置いて行ったくせに」

「………」

繋いでいた手をぎゅっと握られて、なまえの顔を窺い見ると目に涙を浮かべていた。
ああ、あの時と同じ顔をしている。直感的にそう思った。

「なまえ」

名前を呼んでも返事は返ってこない、いつかの再現みたいだ。
手を強く握り返すとなまえの肩がぴくりと揺れた。

「春市、私ね…」

「待って、なまえ。待って」

もうすぐ僕たちの家が見える。家に着いてしまうと幼馴染の関係に戻ってしまいそうだから、今のうちに言っておかないと。

「待てないよ!いつまで待てばいいの…?また一緒になれるってどういうこと?」

ああ、伝えたと思っていた僕の気持ちは、なまえにちゃんと届いてなかったんだね。
あの時から今までずっとわからなくて考えていたのかな。だとしたら申し訳ないことをした。

「好きだよ。なまえも僕のこと、好き?」

「…っ、好きだバカ!」

繋いでいた手を振り解かれたと思ったら、そのままの勢いで体当たりされた。
僕の首筋に顔を埋めてぼろぼろと零れた涙が伝ってくる。

「そんなに泣いたら兄貴にバレるよ?」

「隠すつもりなんかない!」

「…怒られるのは僕なんだけど」

なまえを攫った挙句、大泣きさせたなんてことがバレたら確実にどやされる。兄貴にとってなまえは可愛い妹だからなあ。

「今は離れ離れだけど、また一緒になろうね?」

拳で乱暴に目元の涙を拭ったなまえが言う。そんなこと言われるまでもない。

「へえ、それって俺も含まれてるの?」

「亮介!」

「二人があまりにも遅いから迎えに来たよ」

にっこりと笑ってなまえにお帰りと言う兄貴。

「春市はとりあえず報告することがあるみたいだね?」

同じ笑顔のはずなのに背筋がぞっとした。
それでも、僕はずっとこういう展開を待っていた。
今日のご飯何かな?、と漂う空気に気付かず一人能天気に笑っているなまえを見て、僕も兄貴も思わず笑ってしまった。

back