触れたら溶けると思います

やっと想いが通じた私の大好きな人。
好きで好きで仕方なくて、今でもやっぱりこれは都合の良い夢なんじゃないかって疑ってしまうくらい。

だから成宮くんに「デートでもする?」と誘われた時は嬉しさのあまり発狂しそうだった。
ちなみに告白された時は心臓が止まるくらい驚いて喜ぶ余裕なんてなかった。

初めてのデートというのは一体どこに行けばいいのか皆目見当もつかない私に対して、成宮くんは実にてきぱきと約束の時間・場所までを決めてメールをくれた。
指定されたのは家から最寄から電車で数駅のショッピングモールも映画館も何でも近くに揃う場所。

「お、お待たせしました!」

余裕を持って約束の時間の15分前に着いたのに、まさか成宮くんが先に待っているとは。
ああ私服もかっこいいです…。

「まだ時間になってないじゃん。みょうじ来るの早いね」

「それは成宮くんこそ…」

「俺は事前に用があっただけだから。じゃあ行くよ」

まだ時刻は午前でお店はつい今しがた開店した頃合いなのに、事前に用というのは一体何だったのだろうか。
内心不思議に思っていると、すっと成宮くんの手が差し出された…ような気がした。
一瞬だけ宙を彷徨った右手は、しかしそのまま成宮くんのポケットへ。

あれ、もしかして私タイミング逃した…?

「とりあえずテキトーにぶらぶらするから、入りたいお店があったら言ってね」

「え、あ…、成宮くんの行きたいところとかは?」

「それも付き合ってもらうから」

言いながら入ったのは複数のショップがある大型店舗で、上階にはレストラン街もあるらしい。
とりあえずはここでお昼も済ますのだろうか。

「あ、みょうじ、こっち行こ」

さっそく魅かれるショップがあったようで、足早に一人行ってしまった成宮くんを追いかけた。

△▽△

「みょうじはどっか興味ないの?」

成宮くんの背中を追いかけていたばかりの私はその言葉にはっとした。そういえば自分のことを考えていなかった。

「あー…、えっと、まだない…かな」

「ふーん。あんまり好きじゃなかった?ここ」

「え!いやいやそんなことないよ!まだ全部見てないし、そんなはずは」

「そう。ならいいんだけど。なーそろそろ昼食べよ」

時計を見れば丁度昼時で、私たちは上階へと行くことにした。
上階にあるお店はどれもランチなのに千円以上するところばかりで、ファストフードに行き慣れている高校生の私にとっては正直高すぎる。

「みょうじ何食べたい?」

店舗一覧の看板の前でそう問われて私は焦った。
手持ちはもちろんあるけれど財布に大ダメージは間違いない。うちは定額お小遣い制なので今月はもうびた一文もらえないだろう。

「え、えーっと…」

「うん」

「えっと………」

「…もしかして、食べたいお店ない?」

「や、そんなことは!」

ダメだ!せっかくの成宮くんとの初デートなのに私は一体何を考えているんだ。
パスタで!と成宮くんに言うと、女子ってやっぱそういうの好きなんだねと笑われてしまった。もしかして、男の子はあんまり好きじゃなかったのかな。

注文したパスタセットはなるほど普段友達と行くお店とは一味違っていてとても美味しかった。
これはそれ相応の対価だなと納得してお会計の段になって財布を取り出すと成宮くんに制された。

「出すから」

「え!」

いやいやいや、そんなことができるわけないでしょう!
アルバイトをしているわけでもない高校生同士で、まさか奢ってもらえるとは思わない。
レジ前で問答を繰り広げようとしたが、成宮くんに背中を押されてあっさりと店から出されてしまった。それを見守る店員さんの目が何とも生暖かい。

会計を済ませて出てきた成宮くんにもう一度抗議しようとするも、無視されてしまった。

「ここ展望台あるから、はい行くよー」

連れられた展望台からは街が一望でき、非常に良い眺めだった。
だけど私は未だにさっきのことが引っかかっていて眺めを楽しめないでいる。

「…成宮くん」

「まだ言う?」

「だって、バイトとかしてるわけじゃないのに」

「…みょうじはもうちょっと俺の気持ち考えてよ」

はあ、と大きくため息を吐いてしまった成宮くんを見て冷や汗が流れる。もしかして不機嫌にさせてしまったのだろうか。

「初デートくらい、見栄張らせてほしいんですけど」

「…見栄?」

「最初っから割り勘とかオトコのコケンにかかわるでしょ」

「はあ…」

沽券というのはわかるが、成宮くんからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。そういうことを気にするタイプだったとは。

「…それからついでに言わせてもらうけど、もうちょっと積極的になってほしい。みょうじは何が好きかまだ把握できてないから、そういうの教えてくれると助かる」

「…うん」

ああそうだったんだ。この場所を選んでくれたのはお互いのことを少しでも知れたらと思ってのことだったんだ。
成宮くんは最初から私のことを考えてくれていたんだ。

そう思うとすごく嬉しくて、付き合ってるんだなあって妙に実感して、涙が出てきそうになった。

「じゃあ行くよ」

そう言って今度は指を絡め取られ、ぎゅっと確かめるように手を握られる。

「へへっ。やっと繋げた」

満足そうに笑った成宮くんとは対照的に、私は恥ずかしさでもう溶けてしまいそうだった。

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