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山も落ちも特にない春市

その日は朝から立て続けに嫌なことがあって、学校に着く頃にはすでに私の機嫌は最悪だった。
何でこうも悪いことが重なるかな。今日のお誕生月占いは2位だったのはずなのに。

「ちょっともう小湊くん聞いて―!」

だから小湊くんを見つけた瞬間思わず大きな声をあげてしまった。

「今日は本当に起きた瞬間から嫌なことだらけでさ。まずベッドから落ちて目が覚めるし、昨日の雨のせいでできた水溜りにはまるし、自転車ですれ違った人に鞄ひっかけられて表通りで派手に転んだし、挙句の果てにスカートの中凝視されてよくわからないけど嘲笑されたんだけど!?どういうこと!?」

「ちょっ…、みょうじさん声大きすぎ…!」

感情が高ぶり過ぎて余程声が大きくなっていたらしい。焦りを浮かべた小湊くんにしーってされてしまった。
ごめんね小湊くん。
出会い頭でこんなめんどくさい奴に掴まって愚痴をだらだらと聞かされる小湊くんが可哀想だと思うが、それでも私は小湊くんに聞いてほしかった。

「今日は気分最悪なんです…」

「それは、何ていうか大変だったね」

「うん。そうなんです。ありがとう」

感情をぶちまけて一応労いの言葉をかけてもらったところで、ようやく私は落ち着いた。
さすが小湊くん。私の心のオアシス。

小湊くんと話すだけでよくわからないけど心が楽になってホッとする。私はこれを小湊セラピーだなんて陰でこっそり言っているが、友人たちは誰も理解をしてくれない。
そもそも正面切って話しかけにいくのはなまえくらいなんじゃないの?とのことだ。

確かに言われてみればその通りだ。小湊くんが私以外の女の子と親しく話している姿を見たことがない。
もちろん必要に駆られれば話すようだけど、それ以外では全くない。

「小湊くんって、女の子苦手なの?」

「…突然どうしたの」

「いやちょっと気になっただけ」

ふと浮かんだ疑問をそのままぶつけてみると、小湊くんは困ったような笑顔を浮かべながらも首を横に振った。

「別に苦手ってわけじゃないよ」

「ふーん、そっかそっか。それなら良かった」

「良かったって、どうして?」

「や、こっちの話」

もし異性と話すのが苦手だったら、私は結構図々しいことをしているんじゃないかと少しだけ不安になっていたので、小湊くんの返答にこっそり安心した。

「みょうじさんこそ、あんまり男の子と話してるの見たことないけど」

「うん?」

思ってもみなかった方向からの切り返しに、私は首を傾げた。

「うーん、そうだね。言われてみればそうかもしれない」

女友達とやたら仲が良いせいか休み時間はなんかは一緒にいることが多く、そうなると必然的に話す人は限られてくる。

「あ、でも小湊くんとは話すじゃん。一番仲良しだし」

なんてったってオアシスだし。心がささくれ立ってしまった時には小湊くんに限る。
一番仲が良いっていうのは、もしかしたら烏滸がましいかもしれないけど。

廊下を並んで歩いていたはずが、気が付けば小湊くんの足が止まっていた。
おや、と思って振り返ると、俯いた状態で立ち尽くしている。

「え、どうしたの?お腹痛い?熱あるとか?」

長い前髪ではっきりは見えないが、どことなく頬が上気しているような…。

「ちょっとおでこごめん…ね」

小湊くんの額に触れようと手を伸ばして驚いた。隙間から覗いた瞳があまりにも綺麗でまっすぐで。

わ、わ。
小湊くんってこんな目してたんだ…。

不意に高鳴った自分の心音に気付かない振りをして掌で熱を測る。

「…んー?熱いような熱くないような」

「みょうじさん…」

今にも消え入りそうな声につられて再び小湊くんと目が合った。

「大丈夫、だから」

「あ、うん。…うん、ごめん」

慌てて離した掌がとても熱い。まるで小湊くんの熱が移ってしまったようだ。

(20150826)

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