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大学生の純さんと新入生B

大学生になって一か月が経った。
最初の頃は頑張っていたお化粧も日が経つにつれて簡単になり何となく落ち着いた。
純さんは目敏く私の変化を見つけては、「そっちの方がいい」と言ってくれる。どうもナチュラルメイクの方が好みらしい。

授業が本格的に始まると、純さんとは最初ほど頻繁に会えなくなってしまった。それでも2、3日に1度はどこかしらで顔を合わせる。
今頃どこで何をしているのかな、なんて考えてしまうあたりきっと私は純さんのことが好きなんだと思う。それでもこの気持ちが恋なのか、単なる憧れなのかは自分でもよくわかっていない。
どちらにしろ、会えたらすごく嬉しいことに変わりはない。

「純さーん」

「おう、なまえ。席取っておいた」

大教室で見つけた背中に声をかけると、純さんは机の上の鞄を除けてくれた。

「毎回ありがとうございます」

「別に構わねえよ。それにしても、毎日毎日よくちゃんと授業に出るな。周りの連中はそろそろサボりを覚え始めたんじゃねえの?」

にやっと意地悪な笑みを浮かべる純さんの仰る通り、友達は大体サークルに入り浸っていてキャンパス内にいるのに授業に出ようとしない。
私はまだサークルに入っていないこととそれから純さんに会えるから、こうして毎日ちゃんと授業に来ている。

「大学生として当然ですよ」

「はいはい。言ってろ」

「えー、純さんひどい」

近頃はやっと純さんとの距離が掴めてきて、お互いにこれくらいの軽口なら叩けるようになった。

授業中こっそりと純さんを盗み見ると、普段はしないような真面目な顔で真っ直ぐ前を向いていた。何てことはない、日常の一コマ。だけどこの顔を知っているのは私だけなんだと思い優越感に浸る。

最近気付いたことだけど、純さんはどうやら人気者だ。男気溢れるというべきかアツいというべきか、そんな性格のおかげでやはり部活の後輩からの支持を得ているらしい。男の子人気には納得したのだが、よくよく見ていると教室や食堂、コンビニに至るまでありとあらゆる場所で女の人に声をかけられている。
これにはさすがに面食らった。そして同時に焦りを覚えた。
何となく、自分の居場所がなくなってしまうような気がする。このままでは純さんのお家にお邪魔できなくなってしまうような、そんな焦り。
だからこそ、純さんを独り占めできた時の喜びは一段と大きい。

「相変わらず早口な先生ですねー」

「確かに。うっかり聞き逃すと大変だな」

言いながらルーズリーフやペンケースをトートバックに片付ける純さん。いつもより荷物が少ない。

「今日はもう帰るか?」

「そうですね、何も用事とかないですし」

「よし。じゃあ一緒に帰るか」

「えっ、いいんですか!」

内心ガッツポーズを決めて、席を立った純さんの後を追う。
今日は部活ないのかな。キャンパス内を並んで歩くの初めてだな。

喜びが顔に出ていたのか、振り返った純さんに「何笑ってんだよ、きもちわりい」と言われてしまった。

建物の外に出ると、太陽の日差しがまぶしくて思わず目を細める。青々とした芝生に座って話している人たちがちらほらといる。

「春ですなあ…」

「もう初夏っつってもいいくらいだけどな」

「これくらいの気候が一番好きですよ」

「あ、わかる」

春もいいけど秋も捨てがたい、と純さんと真剣な議論をしながら歩いていると、突然女の人たちの声が聞こえた。

「伊佐敷ー!」

きゃあきゃあと聞こえてくる笑い声の方向に目を向けると、純さんと同じ学年と思しき人たちが手招きをしていた。

「一緒にピクニックしようよ」

「キャンパス内でピクニックとかないだろ」

「いいから!話しようよ」

おねがーいと甘えられて、純さんは足を止めて彼女たちと会話を始めてしまった。その場に突っ立っているのも間抜けな気がして、かと言って先に歩いていくわけにもいかない。
どうしたものかとおろおろしていると、それに気付いた女の人に声をかけられた。

「伊佐敷の彼女?」

「いや!そんな滅相もないです」

「ふうん?」

頭から足先までじっくりと舐めるように見られて正直あまり良い気はしない。何だか値踏みされている気分…。
純さん早く帰りましょうよ、口に出して言うことができないのでそっと純さんの服の裾を引っ張る。

「ん、わりいな。先約あるから」

行くか、なまえ。服を掴んでいた手をそっと握られて、はっと我に返る。

「あ、えっと!ごめんなさい、服皺になりますね」

慌てて手を放した拍子に勢いよく純さんの手を払ってしまった。手を握られてプチパニックになったとはいえ、何てことを。純さんを見ると驚いたような、傷付いたような表情。

「ご、ごめんなさい、私」

「…なまえはちょっと落ち着けって。はい、深呼吸」

「は、はい…」

ふう、と大きく息を吐いて気持ちを落ち着ける。手が触れたくらいで何をそんなに慌てることがあるんだ私。それよりもちゃんと謝らないと。
そう思った矢先、純さんが先に口を開いてしまった。

「なあ、なまえ」

「はい?」

少しだけ前を歩いている純さんを見上げるも、表情は見えない。

「勝手に触って、悪かった」

「え…、純さん?」

それから家に着くまで、純さんはいつもより口数が少なかった。いつもなら家の前で一言二言交わすのに、じゃあなと言ったっきり部屋の中に入ってしまった。

(20150209)

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