羨望は叶わない

沢村くんのことが大好きだ。いつでも真っ直ぐ、何事にも全力で前向き。私にないものを全部持っているんじゃないかと思うくらい。沢村くんは私の太陽だ。

「なまえ先輩!」

「あ、沢村くん」

こうして廊下でばったりと出会うと、いつでも満面の笑みで声をかけてくれる。ぶんぶんと振るしっぽが見える錯覚を起こすくらい、彼は何だか犬っぽい。しかも忠犬のイメージだ。

「今からどこ行くんすか?」

「んー、図書館だよ」

「ほほう、お勉強ですか。受験生って大変ですね」

手に持っていた参考書と筆記用具を広げて見せると、納得したように何度も頷く。沢村くんはまだ1年生だからそういう心配事はもう少し先だねと笑うと、難しい顔をされた。

「受験…するんですかね?」

「さあ、それは沢村くん次第?」

「難しいことはよくわかんねえや」

自分のことなのにわからないと言って明るく笑い飛ばす沢村くんを見て心が温かくなる。前向きなんだか怖いもの知らずなんだか、そういうところが本当好きだよ。

「あ、そう言えばなまえ先輩。少々女子としての意見をお聞きしたいんですが、いいですか?」

「う、うん。私で良ければ」

「非常に助かりやす!ちょっとこれを見て、読解してください」

これ、と言って差し出されたのは携帯電話の画面。見ていいものかと一瞬迷ったけど、見てとお願いされているんだしと思い直して覗き込んだ。

「メール、女の子?」

顔文字と絵文字がふんだんに使われ、数行に及ぶ比較的長い文面。内容は…。

「これは…」

「これは?」

「遠回しな、デートのお誘いだね」

「やっぱそうっすか!」

さっと頬を赤く染めて嬉しそうな沢村くん。その表情を見て私は悟った。というよりも、見てくださいと言われた時点で、そのそわそわした様子から何となく察していた。沢村くんは、きっとこの子のことが好きなんだろうな。

「ありがとうございます、なまえ先輩!」

「いえいえ、これくらいお安い御用だよ」

「それじゃあ勉強頑張ってくださいね!」

ぐっと両手を握ってビックスマイルを向けられたとあれば、私もそれを返すしかない。沢村くんの真似をして同じように笑って見せた。そしてそのまま数歩、すれ違った沢村くんを振り返って思った。彼は、私とは全く違う道を歩んでいくんだろう。

羨望は叶わない。私の憧れをぎゅうぎゅうに詰め込んだ、太陽みたいな沢村くんにひそかに恋をしていることを、誰も知らない。

back