あなたは私が嫌いだね?

「え、今なんて?」

「だから、今日の調理実習でお菓子作ったらしいじゃん。頂戴」

どうせもらってくれる人いないんでしょ、と非常に失礼極まりない発言をしてきたのは同じクラスの小湊だ。

「…いないけど」

「じゃあ、それもらってあげないこともないよ」

にこにこと顔では笑っているように見えるが、彼の内心が笑っていないことを私は知っている。笑顔で毒を吐く小湊に手作りのお菓子なんかをあげた日には、まずいとか味覚おかしいんじゃないのとか、とにかくそういう言葉を投げられるんじゃないかという不安に陥ること間違いなしだ。

「いや、えっと…」

「何。本当はあげる人いるとか?」

差し出された手に戸惑って逡巡すると、あらぬ方向に話が進み始めた。本当はあげる人なんていないから家に帰って家族とでも食べようかと思っていたんだけど…。うん、相手がいることにしちゃえば小湊も諦めてくれるかな。

「う、うん。いる…けど」

さすがに小湊も、諦めてくれる…はずだったのに。貼り付けていた笑顔を一層深く、口角を上げてにたりと音がしそうなくらいの悪役顔になった小湊に恐れおののく。何の地雷を踏んでしまったのだろうか。
ひぃっと小さな悲鳴を上げて後ずさると、あろうことか手首をがっしりと掴まれ逃げられなくなってしまった。握力が強くて痛い。

「みょうじ」

「は、はい!」

「誰?」

「は…、え?」

「だから、誰にあげるかって、聞いてるんだけど、わかる?」

言葉を少しずつ区切ってまるで小さな子を諭すように問われてしまった。正直適当な嘘だから相手なんて考えていない。ええと…と言葉を濁して目を泳がせると、廊下を歩く伊佐敷くんが視界にに映った。

「い」

「い?」

「伊佐敷…くん」

「はあ?」

すると握られた手が一層強くなり、ぎりぎりと音を立てて締め上げられる。痛いと反射で訴えると、ほんの少しだけ力が緩められた。ほんの少しだけ。小湊は相変わらず怖い顔をしている。何故私がこんな目に遭うのかわからなくて、その理不尽さに涙が出そうになる。

「何で純なわけ」

「だ、ダメですか…伊佐敷くん」

「ダメに決まってるね」

「何で!」

こんなに理不尽に圧迫されているんだ、きっと小湊は私のことが嫌いなんだ。知ってたけど!

「みょうじと純は合わない」

「何でそんなこと、小湊に言われなきゃいけないの…」

「合わないってわかるから」

「言い切る根拠は…?」

合わないと断言したんだ。きっと私に伊佐敷くんは勿体ないだとか、不釣り合いなのくらい自分でもわかるでしょとか、そんな暴言に近いものが飛んでくることを覚悟で問うと、小湊にふんっと鼻で笑われた。

「みょうじが一番合うのは俺だから」

「…は?」

「はい、だからそれ、もらってあげる」

ぽかんと口を開けて呆然としている間に、手の中にあったお菓子をするりと取られてしまった。あれ?小湊は私のことが、嫌いなんじゃなかったの?

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