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ぶち壊すよ、いい?

「じゅーん、お邪魔しまーす」

ノックとともに声をかけると、部屋の中からバサバサと何かが崩れるような音が聞こえた。多分、純が慌てて漫画の山を蹴倒しでもしたのだろう。仕方がないので10秒ぐらい部屋に突入するのを待ってあげた。

「やっほー、お帰り。帰ってくるなら前もって言ってよね」

「なまえ、お前なあ…」

「あ、どうしたのその漫画?新作?」

「ああ、これは」

「あれ、肘怪我してるね?痕になっちゃいそう」

「なまえ」

「あーもう、そんな畳み方じゃ服に皺が寄るよ」

「おい、なまえ」

とにかく気が付いたことから口に出していると、純に腕を掴まれて制止された。うるさいって顔してる。
だって久しぶりに顔を合わせたのに無言なんて嫌だし、恥ずかしいし。あと、それから正直何て声をかければいいのかわからない。純の夏は終わった。
沈黙に耐えられなくて再び口を開こうとすると大きな手で塞がれてしまった。

「なまえ」

「う、ん」

「今までありがとう。応援しててくれたのにな。まあこれからもよろしくってことで」

「………、うん」

「そんな顔すんなよ」

笑え笑え、と純に頬をつねられる。これだからこの幼馴染は。いつだって自分のことより私の気持ちを優先してくれる。本当に優しいんだから。

「純はさ、どうするの?」

「さあなー。正直全然わかんねえ。なまえはどうなんだよ、受験」

「うう…、毎日お勉強頑張ってます、よ?」

「本当かあ?」

「頑張らなきゃいけないのは、わかってるよ。だって」

だって純と同じ大学行きたいもん。
その言葉は私の気持ちと一緒に飲み込んだ。幼馴染で初恋なんて、正直失恋フラグしか立っていない。

「だってなんだよ」

「だって…、人生かかってるしね」

「大袈裟だな」

大袈裟じゃないよ。だからさっさと志望大学決めて教えてくれ。全く私の気持ちに気づく気配もない純にいつもやきもきする。

その時、机の上の携帯電話が振動し始めた。ディスプレイに表示された電話相手の名前を見て純がちょっと嬉しそうな表情をしたのを私は見逃さなかった。

「電話。ちょっと静かにしとけよ」

「うん」

相手は誰だろうかと思い、自分も携帯電話を触る振りをして耳を傾ける。すると漏れ出た声の主は、女の子だった。
え、純が女の子と電話!?いつの間にそんな仲良い子が出来たのだろうか。もしかしてすでに付き合っているのだろうかと、内心気が気じゃなくなる。

「ああ、それじゃあな」

「…誰だったの?」

「あん?…あー、まあ、誰でもいいだろ」

「何それ…」

口元の緩みが隠しきれていない純に誰だったのか問うと、あからさまにはぐらかされてしまった。

「教えてよ」

「なまえには関係ねえだろ」

「…あるよ」

「ねえって」

「あるもん!」

突然大きな声を出した私に驚く純。おい、ちょっと落ち着けよと宥められたことで一層頭に血が昇る。

「関係ないとか…言わないでよ」

「…なまえ?」

「純は何もわかってないよ。…私の気持ちも、何もかも」

純は先ほどから明らかにおかしい私の様子に狼狽えてばかりいる。こんな時に優しい言葉の一つもかけられないなんて。

「ねえ、純。私たち幼馴染だね」

「…おう」

「もうさ、今日でやめていいかな、幼馴染」

「おい、何言って…」

「だからさ!」

関係ないと言われてしまうんだったら、この幼馴染なんて邪魔な括り、ぶち壊すよ、いい?

真っ直ぐに純の目を見つめて、ずっとずっと、心の奥底にしまい込んで蓋をしていた気持ちを解放する。やっと言える。失恋フラグなんてもう知らない。

「大好きだよ、純。幼馴染としてじゃないよ。私は純のことが、異性として好き」

「なっ…」

「純は…私のこと、そんな目で見てないかもしれないけど」

「…ざけんなよ」

「え?」

言いたいことを言えてすっきりとした私は完全に油断していた。突然乱暴に腕を引かれて純の胸に閉じ込められる。首筋に当たる髭が痛いような、くすぐったいような感覚に身を捩る。力いっぱい抱きしめられたことによって、私の背骨がみしみしと音を立てた。

「いっ、痛い、純!」

「ふざけんなよ、お前。勝手に…勝手に言ってんじゃねえぞ」

「そんなの私の自由じゃん」

「俺から言おうと思ってたのに、勝手過ぎんだろ」

「え…」

きゅっと胸が詰まる感覚は、抱き締められているからではない。きっと私の顔は真っ赤になっている。

「俺だって好きだ、ばーか」

ああ、壊れた。

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