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「#甘々」のBL小説を読む
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変なの、ドキドキしてる

伊佐敷はただの同級生で、ただの友達。そう思っていたのは私だけだったみたい。

別に特別でも何でもない日。今日の時間割は好きな科目が多くて、一週間のうちでも好きな方だなあ、なんて他愛もないことをぼんやり考えていたお昼休み。
お弁当を食べ終えて、午後からの移動教室の準備のために机の中を漁っていたら、伊佐敷に声をかけられた。
喧騒に包まれた教室の中でもよく響くちょっと低めの伊佐敷の声。

「みょうじ、今日の放課後ちょっといいか」

「んー?なに、買い物とか?」

「いや、ちょっと」

伊佐敷にしては歯切れが悪い、不思議だ。
そう思って顔を上げると伊佐敷は眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。普段から十分強面なのに、これじゃ迫力2倍だ。

「顔こわいって」

「うるせえ。時間あるのか答えろよ」

「委員会の後で良かったら。多分すぐ終わるし」

「じゃあ、教室で待ってっから」

この時から変だなとは思っていた。話しなら今すればいいのに、何でわざわざ放課後?しかも委員会終わるまで待つなんて。
一連の流れを見ていた友達に告白なんじゃないの、と冗談めかして言われたけれど、そんな少女漫画みたいなことが現実であるわけないと思っていた。
しかもあんなに怖い顔をした人がまさか告白なんて。その場で笑い飛ばしてから、伊佐敷の話しの内容のことはすっかり意識の外においやっていた。

だから私はすっかり忘れていた。そうだ伊佐敷は少女漫画が好きなんだ。

「みょうじのことが好きだ」

夕日に赤く染まった教室で、夕日に負けないくらいに顔を真っ赤にした伊佐敷が口を開く。普段はうるさい教室でだってあんなによく通る声をしているのに、今は緊張しているのか声は小さく掠れ気味だ。
一方の私は予想もしていなかった展開、正確にはあるはずがないと勝手に思い込んでいた展開に言葉を返せないでいる。

「…みょうじ?」

「あ、うん。えっと…」

「何か、信じられねえって顔してるな」

「そりゃそうでしょうよ…。まさか伊佐敷から告白されるなんて」

「放課後話したいことがあるって言ったら、大体検討はつくだろ」

「いやいや。あの時の伊佐敷さんすっごく怖い顔してたからね?検討なんてつくわけないからね?」

いつもなら私の軽口に乗ってくれるのに、今の伊佐敷にそんな元気はないのか見るからにしょんぼりしてしまった。

ああ、何か、何だろうかこの気持ちは。
伊佐敷はただの同級生で、ただの友達。

なのに、伊佐敷は私のことが好きなんだって。あんなに顔を赤くして、私の一挙一動に敏感に反応して、本当に恋をしているみたい。

「やっぱ無理か、俺じゃあ」

「………、私なんかのどこが好きなの」

「そんなこと聞くか?普通」

「好きって言われたら気になるでしょ」

「弱味握られそうであんまり答えたくねえな…」

がりがりと頭を掻いて、ひどくバツが悪そうな伊佐敷はそれっきり黙りこんでしまった。
何だか伊佐敷ばかりをいじめているみたいで、すごく気が引ける。

「私は、ね」

「おう」

「何か今すごく伊佐敷をいじめてるみたいだから、はっきり言っておくとね。伊佐敷は友達なんだってずっと思ってた。今日だってまさか友達から告白されるなんて思ってもみなかった」

「………、そうか」

「それでもね、何か変なの」

「変って何がだよ」

夕日に染まった教室、高校生の男女が2人、生まれて初めての告白。
本当に少女漫画みたいな展開にすごく。

「すごくドキドキしてる。伊佐敷は友達だと思ってたのに何でだろうね?」

ぎゅ、っと目を瞑って言葉を吐き出すと、伊佐敷の大きくてごつい手に両手を包まれた。目を開けると今にも泣きだしそうなくらいに眉を下げた伊佐敷。心なし目が潤んでいるような。

「みょうじも、俺のこと好きなんじゃねえの?」

「…うん、そうかも」

「なあ、みょうじ」

「みょうじじゃないでしょ?」

「何が…」

「なまえでしょ、純」

ぶわっと効果音がつきそうなくらい一気に顔を赤くした純がおかしくて、私は思わず笑った。
今までただの同級生で、ただの友達だと思っていたのに、案外それは私の勘違いだったみたい。

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