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青い春、強襲

修学旅行の日取りが近付くにつれクラス全体が浮足立っていくのがよくわかった。
俺ら野球部だけが、その雰囲気に馴染めず何とも居心地の悪い状態だ。

別段クラスに仲が良い奴がいるわけでもなければ高校には野球をしに来ているのだから、修学旅行に行けないくらいで騒ぐつもりもない。

―と、思っていた。

「え、修学旅行に倉持行かないの!?」

ただでさえ大きな目を、こぼれんばかりに見開いて驚いているのは同じクラスのみょうじなまえ。不思議なことにこいつとはわりと仲が良い。

「野球部は行けねーんだよ」

「何それ、聞いてないよ!」

「本当にお前が聞いてねーだけだろ」

現に班分けの段階で野球部だけひとまとめにされていたはずだ。行けなかった場合のため事前に。
他の班は男女が半々なのに俺らだけひとまとめなんて、結局修学旅行に行けたところで虚しくなるに決まっている。

そうみょうじに教えてやると、すごく微妙な表情を浮かべて唸った。

「………むさくるしいね?」

「だからそう言ってんだろ!わざわざ繰り返すな!」

「えー、そっかー…。他のみんながきゃっきゃしながら遊んで、修学旅行カップルのフラグが乱立する中、野球部だけは男だらけで学校に居残りか…」

「…一応、マネージャーだっているからな」

「ああ…そっか…」

マネージャー二人のことを思ったのか、どこか遠い目で心底不憫そうな顔をするみょうじ。お前大概失礼だからな。

「俺らが修学旅行に行けないのを理由に、振られることもあるらしいぞ。二人で思い出を共有したいのに、何で○○君はいないの!?みたいな展開で」

「はっはー。それはまた自分勝手な理屈だね。自分に都合のいい人じゃなくなったら別れるんだ」

「まあ、そんなもんだろ」

「そんなもんだね」

実際に彼女持ちの奴はそれで近頃びくびくしている。部の中でもそいつの前で"修学旅行"というのは禁句だ。

つくづく野球部は割を食ってるね、というのはみょうじの言葉。
割を食うもなにも、普通の高校生と同じ学校生活が送れるとは毛頭思っていないし、普通じゃ経験できないようなことをしているんだ。
自分で望んできた以上、不満なんぞあるわけがない。…って説明してもわかんねーだろうな、こいつ。

一体何を考えているのか、みょうじは頬杖をついてぼけっと宙を眺めている。
その横顔は贔屓目なしに見ても整っていて、それが何故か無性に腹立たしい。みょうじのくせに。

「私も、そういう意味では自分勝手だなあ」

「は?」

「いやね、修学旅行カップルに懸けてたからさ」

みょうじのくせに。例にもれず、こいつも浮かれてやがったのか。
何となくこいつだけはそうじゃなかったらいいのになんて淡い期待を抱いていたのがアホらしい。
そもそも何でそんな期待を抱いたのかすらわからない。

「…別にお前は、どうにでもなるだろ」

振られるだけの俺らと違って修学旅行に行くんだ。思い出でも何でも勝手に作ってこいよ。

「ならないんだって、どうにも」

「何で」

「だってさ、その相手が来ないんだもん」

「…は?」

意味が分からなくて一瞬戸惑っている隙に、授業開始のチャイムが鳴った。
教室に次の科目の教師が入ってくる。

「倉持がいないと、意味ないから」

「は!?ちょっと待て、何を…!」

今すぐにでも真意を問い質したいと思ったが、授業始まるから静かにしろと教師にどやされてハッとした。
何てタイミングで爆弾放ってくれるんだこいつは。

こいつがそんなことを考えてくれているとわかっていたら、俺だって。
俺だって修学旅行に行きたくなるだろうが。

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