思い出の消し方

※年齢操作で全体的に暗いです。苦手な方はご注意ください。

一つの布団に一緒にもぐって、素足を絡めて、顔を見合わせて笑う。
共犯者だねと呟けば、少しだけ傷付いたみたいな顔をした。

「私も、御幸も、共犯者」

「…だな」

誰も知らない二人だけの秘密。

ひんやりとしていたはずのシーツは、気付けば私たちの熱が移ってしまってもう温い。さっきまでさらりとして気持ちがいいと思っていたのに、今やもう纏わりついてくるみたいで気持ちが悪い。

「みょうじ」

「ん?」

「いいの?」

「何が?」

「…こんなことになって」

今後に及んでまだそんなことを言うか。私はとっくに腹を括っているというのに。
ぎゅっと眉間に寄せられた皺は、私のことを気遣うようで本当は自分の心配をしている証拠だ。
御幸の方から誘っておいて、拒否する私を何日も何週間も何か月もかけてじわじわと落としたくせに、何で今さらになってと腹立たしくなった。

「もう遅いよ、そんな話したって。事実は変わらないし」

「………」

「もし御幸が後悔してるならそう言って。黙っていなくなるから」

頬に手を滑らせて囁くと、眉間の皺を一層深くした御幸に口付けられた。
追いすがるように、後悔なんかしていないと自分自身に言い聞かせるように。

「どうするの?御幸は」

唇が離れたタイミングでするりと聞けば、言葉を詰まらせた御幸が渋い顔をする。
断ち切るつもりもないなら最初から手出してくるなよ。
その表情を見て喉まで出かかった言葉をなんとかして飲み込む。

繊細な振りをして計算高いのに、何をそんなに。

「私は裏切る相手なんていないから別にいいけど」

所詮二番手。一番にはなれないのは最初から知ってた。
それでも熱心に口説いてくるものだから乗り換えるのかと思いきや、案外女々しいんだね、あなた。

「こんなこと言うと、何か言い訳とかに聞こえそうで嫌なんだけど」

「うん」

「もう連絡もろくに取れない、高校時代の彼女なんて忘れてしまえばいいんじゃない?」

「………」

「とっくの昔に別れたんでしょ?」

昔々の思い出。お化けみたいに付きまとう青春時代の残滓。
もういい歳した大人なんだから、そろそろ現実を見ようよ。
とはさすがに泣きそうな顔をしている彼に向って言えなかった。

何でそんなに引きずってるの。もう10年近くも前のことじゃないの。きっと思い出補正で美化されてるよ、それ。

頭を撫でながら口には出さずに思う。
だから。

「だから、私と御幸は、大事な思い出を消してしまった共犯者、なんでしょ?」

一体どこでそんなに拗らせてきたの。
体だけ大きいくせに、何だか消えてしまいそうなほどに頼りない背中をさすりながら小さくため息をついた。

あと一歩を踏み出したというのに途端に臆病になってしまった御幸を見て、何だかこっちが泣きたくなった。

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