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僕、キン肉万太郎は言わずもながら正義超人として活動している。本意じゃないので本編終わったら身を隠してのんびり田舎ライフを送ろうと画策しているわけだけど。それは置いといて僕ら超人には芸能人のような特性を持っている。僕らの戦いは高確率でテレビに映るんだ。嫌なことにね。
テレビに映れば知名度が発生する。知名度が発生すればファンが現れファンが出来ればグッズが生産されそれをファンが買う。売店に超人を模したフィギュアが並んでいる様は決して珍しい光景ではないんだ。
しかし、知名度イコール人気度ではない。
僕は他の同期と違ってテレビ出演(戦闘)率がえげつない割に人気がある訳じゃないんだ。僕の模したフィギュアが売れ残ってる所をよく見かけるからね。恐らく見た目の受けが良くないんだろう。他の同期のグッズは売れてるし。アイドルよろしく追っかけがいるのも知ってる。
でも僕にはそんな存在はいないんだ。嬉しい誤算だよ。人に囲まれる生活なんて真っ平ごめんだからね。出来れば闘争とは無縁な静かで植物のような生活を送らせて欲しいものだけど。この願いが天に届いた事は今のところまだ無い。
「き、キン肉万太郎さん、ですよね!」
ところが最近、僕は一般の人に話しかけられ握手、サインや写真まで求めらるようになったんだ。しかも凛子ちゃんと同い年くらいの子ばかり。皆、共通点がある。彼女らはある人形を抱えているんだ。
僕を模した可愛くデフォルメされたぬいぐるみを。
ゆっくりしていってね!というフレーズが聞こえそうな首だけのゆるキャラぬいぐるみだった。僕を模しているとはいえ不覚にもちょっと可愛いと思っちゃったよ。僕を模していなかったらちょっと欲しい。
「あー、それうちの学校でも流行ってる。首ったけ万ちゃんでしょ?」
「首ったけ、万ちゃん?」
凛子ちゃんの家の手伝いをしているとき、彼女たちが凛子ちゃんと同い年くらいだったので凛子ちゃんに聞いてみる事にしたんだ。すると有力な情報を入手できた。
首ったけ万ちゃん。女子高生を中心に流行っているゆるキャラグッズらしい。ぬいぐるみだけではなくストラップ、ハンカチなど他にも多種類のグッズが存在し今では持っていない女子高生がいるとかいないとか。いつの間にそんなグッズが。いや、超人グッズなんて勝手に出てるもんだけど。
このグッズの出現に僕のプライベートの時間が著しく削られることになったんだ。散歩中、読書中、買い物中、行く先々で女の子に声をかけられる日々。僕は我慢した。彼女たちだって悪気がある訳じゃない。悪気はない。ふぁんはたいせつに、ぼくのぷらいべーと、
「この首ったけ万ちゃんの作製秘話を御聞きしても宜しいですか?ガゼルマンさん!」
「フ、それはだな…」
キン肉ハウスでブラウン管のテレビに映りインタビューを受けるガゼルマンを見て僕の溜まっていったフラストレーションは爆発した。
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