万太郎になっちゃったよ | ナノ


▼ 冗談なら良かった:テリー・ザ・キッド

万太郎の付き合いは誰よりも長いHF時代から今の今まで縁を切ることなく苦難を共にした戦友であり気の許せる親友だとキッドは自負している。

だがキッドと万太郎の馴れ初めは決して美談ではなかった。

「僕、キン肉万太郎よろしくね」

困った笑顔で握手を求める万太郎。腫れ物でも扱うような雰囲気。キッドが万太郎に悪意ある妨害を仕掛けても難なく避けるうえに困った表情でキッドを見る顔。キッドは父親へ対する反抗心もあったが一番気にくわなかったのは万太郎の態度だった。万太郎の行動の何もかもがキッドにとって腹立たしかった。

それもある事件までの話である。

あの頃の万太郎は可愛いげがあった。怪我したら心配してくれるし課題でわからない箇所があれば丁寧に教えてくれたし。模写は遠回しに断られたが、あれもキッドを思っての事であるのは今なら理解できる。

冗談でこんなことを言ったことがあった。

「HEY、万太郎。試しに俺と付き合ってみないか?」

最初の頃なら

「変な冗談はやめてよね」

と困った笑顔で答えてくれたがそれなりに親しくなると

「はぁ?ぐたらない事言ってないで真面目にトレーニングに励みなよ。馬鹿なの?」

養豚場の豚でも見る冷たい目だった。何だ?このbefore、afterは。交友を深めて知ったことではあるのだが万太郎はかなりの猫かぶりである。外面は物静かで紳士的な超人だが、素の万太郎は身内(同期)にたいしては案外、シビアだ。特にガゼルマンの当たりは二割強い。

しかし、キッドは表向きの品性高潔な万太郎よりこちらの方が好感が持てた。血が通った暖かさを感じるからだ。キッドはそれからも様々な万太郎の側面を垣間見た。実はあがり症で入場前では震えていたりとか、人の前では涙は流さないが影で流していて自分の弱さを表には出さない強情さとか。

万太郎が他人のために頑張っているのも知っている。本人は認めないだろう。何時だったか万太郎は全部自分のためだと溢していたから。根っからのお人好しの癖に変にひねくれているんだあいつは。

誰かのために走り続けた万太郎は今では誰もが認める英雄だ。地球を救って過去を救って、程々に平和になった今でも忙しなく地球だけではなく宇宙まで巡っては自身の伯父の手伝いやなんやりと奔走している。

たまには休んだらどうだ?僕だって休みたいよ。酒の席で苦笑いする万太郎。キッドと万太郎が新世代超人と言われてそれなりの年月が過ぎた。お互い多忙で会う回数は減ってしまったがキッドは暇があれば無理矢理にでも万太郎を誘っては酌を交わした。万太郎は身内に甘い部分もあるので忙しくてもこちらを優先してくれる。キッドはそれが嬉しい。

「なぁ、万太郎。俺たち付き合わないか?」

キッドはにやけた顔で冗談を口にした。万太郎はいつもの呆れ顔で返事を返す。

「バカな事言ってないで僕にお酒注いでくれないかな?空なんだけど」

変わらない関係がそこにはある。この先、どうなるかなんてキッド自身わからない。それでもキッドは万太郎を親友だと思っている。この冗談に本音が隠れていたとしても。これから先ずっと。


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