万太郎になっちゃったよ | ナノ


▼ 平行の追憶:コクモ

酷く魘される日がある。

コクモは悲鳴を飲み込んで目を覚まし急ぎ鏡の前まで走り自身の顔を確かめた。

「わたしの顔」

どっと全身から嫌な汗が流れ震える手で顔を触る。コクモはたまに悪夢と幻覚を見ることがあった。夢はいつも決まって般若の面を着けた男に顔を切り落とされ殺される夢だった。般若の面の男は見知っている。昔、キン肉星で暴れていたノーリスペクトのメンバーの一人で鬼畜のハンゾーと恐れられていた男だ。だがその男はニンジャ率いる隊に捕縛され今は牢の中で服役中である。

だのに何故だろう。こんな夢を見るのは。

深く深呼吸をして精神落ち着かせる。そして回想するのだ。一人の少年の事を。自分の弟弟子であり本当の弟のように想っている少年を。

キン肉万太郎

コクモが初めて出会ったのはハンゾーと対峙したときであった。最初は何故、年端もいかない少年があの場所に居たのか謎ではあったが後から聞くと宮殿で遊んでいた最中に誤って宇宙船に乗り込んでしまいコクモが所属する隊の近くに不時着したとか、二重でゾッとする話ではある。不時着も勿論の事、場所も悪かった。しかし、不幸中の幸い少年は無事であり。今は地球で新世代の正義超人として力を奮っている、実に万太郎らしいとコクモは思った。

万太郎は勇気があり正義感が強い少年だ。万太郎が大泣きしながら松明を振り回しハンゾーに向かった様を思い出し吹き出す。とても危険な行為ではあったがそのお陰であの鬼畜のハンゾーを捕らえられる切欠になったのだから不思議なものだ。だとしても危険なのは変わり無いので散々叱られてはいたが。その後も驚きの連続で何とあのキン肉マンの息子であり、ソルジャーの甥であったりとか。更には弟弟子になったりとか。

コクモは万太郎を思い出すと先ほどの恐怖が嘘のように消えていくのを感じた。

鏡を見る。目が覚めたとき、顔は真っ赤に染まってコクモの面影など消えていた。

だが今は普段の見慣れた顔が鏡に写し出されていた。


prev / next

[ back to top ]