万太郎になっちゃったよ | ナノ


▼ 後輩の前日譚:二期生(-1)

重苦しい空気が場を支配していた。テーブルを囲む三人の超人、その内の一人が重い口を開く。

「俺、先輩が好きみたいなんだ」

ジェイドの意を決した告白に同期生のデッドシグナルとクリオネマンはあ、うん。まぁ、そうだろうね。とシンクロ気味に思った。あれで好意が無かったら逆に神経を疑う。ジェイドの告白は二人からしたら愚問だった。だってこいつ万太郎先輩か師匠以外の話しないし

「いきなり呼び出して何かと思えば、私は帰る」
「え、」
「グギ、俺も帰る」
「ええ!?」

二人は冷めた視線でジェイドを見て帰る支度をする。深刻そうな声で呼び出され心配で駆け付けたら内容がこれである。二人は確かに一期生に比べれば任されている仕事は少ないが暇なわけではないのだ。完全に白けている二人に慌てふためきながらジェイドは彼らを押し留める。

「待ってくれ!話を聞いてくれ!こんなこと相談できるのは二人くらいしかいないんだ!少しでいいから!」

ジェイドの必死の説得に二人は渋々、あげかけた腰を下ろす。ジェイドは胸を撫で下ろし、そして深呼吸を一つ入れて口述する。

曰く、スカーフェイス戦で重症を負ったジェイドを悲し気な表情で気遣ってくれた万太郎先輩の顔が頭から離れない。後光が差して眩しい。可愛い。胸が苦しい。万太郎先輩に触れていたら日に日に感情が昂る。可愛い。どうしていいかわからない。恋、してるかもしれない。

帰ろう。二人は思った。

同期生が同性愛に目覚めて心を痛めないと言えば嘘になるが二人はぶっちゃけどうでもよかった。最初からそんな雰囲気あったし、驚きは殆ど皆無。まるで凪いだ海の様に二人の心は悟りを開いていた。寧ろ、男に好意を寄せられている万太郎先輩の方が憐れに思えた。

相談しても尚、帰ろうとする二人にジェイドはいかないでくれ!と足にしがみつく。そんなやり取りを何往復して痺れを切らしたクリオネマンがジェイドに投げやりに提案する。

「そんなに好きなら襲えばいいでしょう!」
「お、おい。それは流石に」
「それだ!」
「「え?」」

これが全ての始まり。その数週間後、ジェイドは何者かに襲われた後に晴れて万太郎先輩と付き合う事になり報告を受けたクリオネマンの顎は外れデッドシグナルの止まれの標識は初心者マークに変わった。世の中、どうなるかわからない。

ただ、二人はしばらくの間万太郎先輩を直視できなかったと言う。


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