novel | ナノ



「お前変わってんなぁ」

と、お前にだけは言われたくない台詞をこいつは頬を赤らめながら言った。

「まぁ入学式の時からつまんねぇやつとは思ってなかったけど」

と嬉しそうに笑うこいつはさも楽しげにへらへらと俺を見つめている。そんな、俺の机の前を陣取っているそいつは芥川慈郎という名前だった。他人の机の椅子に無遠慮に座り、更にその座り方も足を大きく広げ背もたれを跨ぐような品のない座り方をしていて、俺がこいつに抱くイメージはとりあえず「本能的」というものだった。
いい意味でも悪い意味でも自分に素直で頭ばかりで考えず本能的に体を動かせる人間なんだろうとぼんやりとだがそう思っていた。こいつは幼稚舎からこの学校にいるらしいが、そうにも関わらず変に行儀のいい奴らが多いこの環境のなかでこうも場違いに自然体でいられるやつはそういない。なにせ名門かつ私立だ。大抵は摺り込み教育で知らず知らずに、例え嫌でも行儀よくなっていくものだが(つまり、俺の学校がそうだった)まぁ、こいつあっての友人か、友人あってのこいつか、取り囲む友人があの二人じゃさして不思議でもない。

「俺、跡部見て興奮した」
「アーン?」
「跡部のテニスもそうだけどさ、それ以前に入学式の時にはもうやばかった。俺テニスのすごさ以外で人を好きになるってそうないんだよね。名前とか覚えんの苦手だし。でも跡部は入学式の時にはもうマジで面白かった。しかもテニスもマジマジうめぇし話してみるとマジで変なやつだし、もう最高。今だって跡部と話してるだけですげぇワクワクしてる」
「まぁそうだろうな。それは自然の摂理だろうが、変なやつはお互いさまだ」
「ふはっ、たまんないその性格」

そう少しばかり変態臭く笑ったこいつだが、とてもよく俺を好いているのが純粋にうかがえたので正直悪い気はしなかった。自慢じゃないが俺は今まで馬鹿みたいに人に好かれてきた。そいつらの言う好きとこいつの言う好きは似ているようで全く違っている気がする。今までは俺の家柄だったり俺の能力だったりを色眼鏡で見るようなやつらばっかりで、俺という人間の本質を公平な目線で見てくれたやつはそうそういなかった。つまり、ひとりのただの人間として対等に見てくれるやつは稀だ。という事は、ふむ、こいつは樺地の次に好きかも知れない。

「お前浮いてるだろ」
「どうだろうね。結構馴染んでると思うけど」
「いいや、馴染んでいたとしてお前ら三人、宍戸はまだマシとして向日とお前は明らかに悪目立ちしている」
「跡部がいるから、俺らなんて気になんないよ」
「おいまさかお前ら三馬鹿に俺を加えるつもりじゃねぇだろうな」
「加える加えないって女みたいな事はよく分かんねぇけどさ、まぁ、以後よろしくって事で」

正直こういった浮いてるやつは嫌いじゃない。変わり者こそユニークで刺激的かつ革命的だ。アインシュタインがそうだった。
だからそう言ってにかりと笑ったそいつに俺は人知れず勝ち気な笑みを浮かべる。

「あー、うん、やばい。俺お前の事好きかも」

そしてそうやってまたたまらないというように顔を覆ったこいつにこいつは相当面白いやつだ。と、俺はまさしく直感したのだった。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -