novel | ナノ



「跡部って嫉妬とかしねぇの」

コンビニで買ったらしいおにぎりをまるでハムスターみたいに頬張った岳人がこれまたコンビニで買ったらしい奇抜なファッション誌に目を落としながらそんな事を言った。

一瞬、あまりの何気なさに俺に言われたのかただのひとり言なのかがわからなくて、けれど岳人が自分から跡部の話題を出すなんて事はなかなかないのでやはり俺に言ったのだろうと解釈して曖昧ながらもとりあえず「うん?」と返事をしておいた。

「お前が女に囲まれてても男と仲良くしててもなにも言わねぇじゃん」

やっとこちらに視線を向けた岳人とばちり目が合って、苦笑い。
いや、それ言ったら跡部なんてもっとすごいし別に男と仲良しとか普通だし女の子だって俺が本命とかいう子は結構少ないと思うし。嫉妬するしない以前に嫉妬の要因にすらなってないじゃん。

「じゃあお前はしないの?」

あいつ、女に囲まれてるのがデフォルトだしそれを当たり前だと思ってるしよくわかんねぇパーティーもいっぱいしてるしお前が嫌になる要因ばっかじゃん。
侑士も似たようなもんだろ?跡部ほどじゃねぇけど、侑士のレベルですら俺は無理。いらつく。

「いらつく事に、またいらつくけど」
「……岳人悩んでんの?」
「別に。たださ、侑士も侑士で嫉妬深いというか……結局はお互いさまでプラマイゼロなんだよ」
「うん」
「お前らは、どうなの」
「どうって、」
「俺が見てる限りすごくバランスが悪いから」
「バランス……?」
「お前ばっかり、悩んでる」

ずばり。その言葉が深く胸に突き刺さった。
まさか岳人がそんな事を言うとは予想だにしていなくて、付かず離れず、とてもいい意味で干渉してこないやつだったから。そのくせいざこちらから助けを求めればなんの迷いもなく手を差し伸べて全力で助けてくれる。そんな岳人が、わざわざ自分から足を突っ込んでしまうほど俺たちの関係は危うくうつっているのだろうか。

「……だい、じょうぶたよ」
「なら言いけど。ま、嘘だろうけど」
「あはは。悩んでんのは合ってっけど。跡部はああ見えて結構やきもち妬きさんなんだよ」
「うえー、意外だな」
「ま、嘘だけどさ」
「おい」

あはは。から笑いした俺に岳人も笑った。
目を細めて、心から面白いというように、とても可愛らしく笑った。
忍足はこういう彼の笑顔を見て好きになって、こういう彼の笑顔を見て嫉妬をするんだろう。


* * *

「跡部はぁ、意気地なしだなぁ」
「なんだ急に」

部活のない学校帰りに勝手に跡部の家に寄って、なにやら忙しなくよそ行きの準備をしている跡部の背中を眺めながら、わざとらしくそんな事を呟いた。

「今日は食事会があるから、早めに帰れよ?」
「今日も、だろ?」
「拗ねるなよ」

跡部は基本的に忙しい。休日も平日も関係なくどこか出かけているか学校の事をやっているかトレーニングをしているか。とにかく休息という選択肢を跡部は知らない。
ここ最近はそういう時期なのかなんなのか、食事会という名の貴族のパーティーが毎夜毎夜開かれている。出席しないと確執が出来たりとか今後の家の仕事に響いたりとかとにかく金持ちにも色々あるみたいで出ないわけにはいかないそうだ。まぁ要するに、跡部と俺のふたりきりの時間がここ数ヶ月一時間さえもないし跡部も俺のために時間を作ったりとか、全くもってしてくれない。付き合ってからもう年単位で長いというのにチューはおろか恋人らしいデートまでした事がない。手を繋ぎたいと言ってもなんか味気ない。もちろん、えっちなんてそんな雰囲気にすらならない。跡部って俺が好きなの?ってレベル。跡部は俺の知らない世界を知っているし俺の知らない人達との交流も多いし、ああ、昼間岳人に言われた事があまりにも図星過ぎて泣けてきた。

「……何時に帰ってくるの」
「定かじゃねぇが、日付変わっても帰らないと思うぞ」
「……待ってる」
「まぁ明日は休みだから泊まるのは問題ねぇが……どうせ寝るだけなんだから家でゆっくりしたらいいだろ」
「起きてるよ」
「アーン?」
「頑張って、起きてるから……」

だから出来るだけ早く、帰ってきて。そんで、ふたりで同じベッドに入って寝ようよ。その頃の跡部は疲れてるかも知れないけど、そんなの気になんないくらい俺頑張るからさ、どうか、手を出してきて欲しい。

「無理すんなよ、ゆっくり休め」

なのに跡部はそう言って、俯いた俺の頭を優しく撫でた。目を細めて、とても甘ったらしく、綺麗に笑う。きっと俺はこういう跡部の優しさを好きになって、こういう跡部の誠実さに嫌気がさすのだろう。
忙しいのを理由に、それでも大事に大事に俺を扱って、それを何日も何ヶ月も何年も。ああ。もう。これが、無償の愛ってやつなのですか(かったるい、なまぬるい、ものたりない、つまらない。嫉妬すら抱かれない俺への信頼感がうとましい)


いっそ、無責任に抱いてよ、限界だ。



(誠実なんてくそだ。滅べ馬鹿)
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