novel | ナノ



動物ってカミナリが嫌いだよね。龍の唸り声のようなそれは人間だってビビるぐらいだし当然と言えば当然だけどそれにしてもビビり過ぎだと思う。カミナリなんてさ、ちょっと光ってちょっと落ちてちょっとドカーンと鳴るだけじゃん。むしろ興奮するけどね俺は。

「なにしてんの」

部室のロッカーに頭だけを突っ込んでぎゃあ!だのひやあ!だの奇声を上げているでかい男は忍足侑士15歳、クールだなんだと言われ続けて2年半。もっともそんなの興味ないんだけども。

「見ればわかるやん!めっさ怖いねん!」
「なにが?」
「カミナリが!」

ゴロゴロゴロ、ピッシャーンと絶えず鳴り続けるカミナリに忍足は心の底から怯えていた。その様子が可笑しくてケタケタと笑って馬鹿にすると笑うな!と叱られたのでとりあえず押し黙る。部室の外では薄暗い雲がピカピカと光っていて窓には大量の雨がビタビタと叩きつけられていた。急にきた夕立にみんなは慌てて室内に移動して早々に体育館の練習に切り替えたらしい。忍足と俺は逃げ遅れってやつだった。もっとも俺は最初からここのソファでサボって寝ていたんだけども。

「忍足の弱虫」
「ばっ、ジローかてどうしても苦手なもんとかあるやろ。なんや理由はわからんけどどうしようもなく苦手なもん」
「ドぎつい香水とか?」
「んー、まぁ、そんなもんやな。うぎゃああ!」
「アハハ」

音が鳴る度にぎゃあぎゃあと喚き立てる忍足が若干面白くなって指をさして笑ったら半泣きで怒られた。このままここに置いて行ったらどうするんだろうなぁと我ながら意地悪な事を考える。しかしそれじゃあまりにも忍足が可哀想なのでとりあえず背中を撫でてあげた。気休めにしかならないが忍足は少し落ち着いたようで普段とは違う少し幼稚な忍足に俺はますます楽しくなる。写メを撮りたいけど電源切れてるし全く役に立たないケータイだ。まぁ別にいいけど。
そうこう考えているうちにまた大きなカミナリがゴロゴロピッシャーン!とどっかに落ちてとうとう部室が停電になってしまった。突如電気が消えて真っ暗になってしまった部室に忍足の恐怖は最高潮。女みたいな悲鳴をあげて俺にしがみついてくる。時折光るカミナリの明かりでチラチラと見える忍足の顔は絵に描いたような顔面蒼白だった。眼鏡は光を反射して負けず劣らず輝いているし、アハハ面白い。

「今の凄いでかかったねぇ」
「もう無理や。あかんわ、心臓痛い」
「俺ね、カミナリが気にならないとっておきの方法知ってる。知りたい?」
「し、知りたい……早く言えやそういうの……」
「んじゃあ、こうやって鼻を摘まんで〜」
「ふごっ」

忍足の鼻を強めに摘まむとすぐさま上を向かせた。突然の事に対処しきれない忍足は苦しそうに口呼吸を開始してふごふごと鼻を鳴らしている。そのさまが妙に可愛らしく見えたので俺は声を出して笑うと必死に酸素を求めているその口に自分の唇をくっつけた。元々開いていた口内に舌を無遠慮に侵入させると忍足はいっそう暴れ出したが気にしない。戸惑う舌を無理矢理引き出し好き勝手に弄ぶ。チューとか正直そんなに経験ないけどぶっちゃけあんまり好きじゃない。別に美味しいわけでもないし言うほど気持ちよくもないしする意味がそもそもわからない。それでも忍足とはチューしてみたいと思った。だってあまりにも怖がっているから少しからかってやろうって気持ちと忍足とだったら今までのチューと違って感じるかなってちょっとした希望が芽生えたからである。今更だけどカミナリが気にならない方法なんてただの口実に過ぎないよ。適当適当。

「ぶわっ、おま、ちょ、な」

いよいよ息が出来なくて死にそうになった忍足は渾身の力で俺を引き剥がすとゴホゴホとむせ始めた。唇が離れた際唾液が糸を引いてえろいと思う。忍足の口のなかは昼に食べてた唐揚げの味がした。そういえば最近食ってないし晩飯は唐揚げがいいな。あとで母ちゃんにメールしよう。ああ、ケータイ電源切れてるんだった。

「急になにすんねん殺す気か!ちゅーかお前色んな意味であかん!」
「いいじゃん減るもんじゃないし」
「減るわ!なにかが!」
「でもカミナリ気にならなかったっしょ?」
「え」

俺の言葉に忍足はハッとした。そしてみるみるうちにほっぺたが真っ赤になっていくのをカミナリの光で目の当たりにした俺は図星らしい忍足に人知れずほくそ笑む。

「カミナリ、好きになっちゃった?」

そしてそう笑ってみせるとフリーズしている忍足の顔に覗くように近づいて馬鹿にするようにチューをした。こんな忍足を見れるならチューも悪くないかも知れない。あとで写メを撮ってやろう。ああ、ケータイ電源切れてるんだった。


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