novel | ナノ



侑士へと抱く好意が恋愛感情なのだと気がついた時、この世の終わりかと思った。なにせ侑士だし、侑士だし、侑士だし……。けれど今となっては既に開き直ってしまって侑士とのメールのやり取り一通一通までもが俺のなかでは特別なものになってしまっていた。
たかがメール。されどメール。ベッドの上で足をパタパタさせて侑士とのメールを楽しんでいる俺はまさにさながら女子である。

『あの映画最高やって話やで?一緒に行かん?』
「よく知んねぇけどどうせラブロマンスだろ?男ふたりでラブロマンスかよ」
『ほら、大切な人と見てくださいて宣伝しとるやん。大切な人とならなんも恥ずかしい事あらへんで』
「恥ずい事言うな死ね」
『猫』
「コアラ」
『ラッパ』
「パンツ」
『つみき』
「キス」
『ちゅっ』
「ちなみに魚の」
『魚かい!』
「キモい事してんなよハゲ」
『ハゲてへん』

こんなくだらないやり取りさえもニヤニヤしながらやっている。侑士の言っている事が例え冗談紛いでも酷く嬉しいと思った。

「いいからほら、キス」

しかし侑士にとっては本当に冗談だろうし、俺が照れてるとか恥ずかしがってるとか悟られてしまうと非常に気まずくなってしまう。だから俺の方こそ冗談ぽくして、なんでもないふりをした。わざと風当たりを強くして、まさに侑士が抱くような今までの俺みたいに。(生意気で、自己中心的で、女の子が好きな)

けれどなにか間違ったのだろうか。しりとりの続きを催促した途端、ぱったりと侑士からのメールが途絶えてしまった。途絶えたと言っても数分だけど今まで絶え間なくメールのやり取りをしていただけあってその数分が酷く寂しくて思わず先ほどのメールを読み返してしまう。なにか誤解(というのも変だけど)させてしまったんだろうか。けれど見返す限りそんな点は見当たらない。寝るにしてもまだそんなに遅い時間でもないし、ものすごく色々と考えてしまって我ながら女々しいというかなんというか、ああもうとにかく、不安で仕方がなかった。

ピロリン、と長く感じた数分後やっと届いたメールに心拍数は急上昇。頼む、なんでもない内容であってくれ。そう願いながら、震える指でなんとか受信箱のメールを開くとそこにあったのはなんでもない内容なんてもんじゃなく言ってしまえば天地がひっくり返るような、そんなとんでもない内容だった。
強いて言えば跡部が借金取りを苦に自殺してしまうような強いて言えばジローが一睡もせずに勤勉になってしまうような強いて言えば鳳が宍戸を罵倒して殴る蹴るの暴行を働いてしまうような強いて言えば日吉が俺に対して「向日さん大好きです」なんて吐きそうなほど素直に物を言ってしまうようなそんなにわかに信じ難いまるで絵空事のような事が現実に起こった。ぐらいの衝撃だった。それほどまでに侑士から数分遅れて届いたメールは俺の予想を覆すとんでもない内容だったに違いなかったのだ。

『好きです』

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