~2010 | ナノ




 俺はまぁユウジ先輩が好きという事になっているけどユウジ先輩の想い人は小春先輩なわけで完全なる片想いと化している。小春先輩はというと案外あの人はシビアで仕事とプライベートをきっちりかっちり分けているのでユウジ先輩に脈はない。なのに小春先輩は今日もユウジ先輩をたぶらかすのだ。語尾にハートマークを付けてはユウくんユウくんとあーうっとうしい。それで鼻の下を伸ばすユウジ先輩もこれでもかと腹立たしいしいっそ殺してしまいたい。

「小春先輩キモいっすわ」
「まぁ、失礼しちゃうわねぇ」

 小春先輩の傍には常に四六時中うざい程ユウジ先輩がついて回っているのが日常なのだけれど移動教室の途中で見掛けた先輩には何故かそのユウジ先輩の姿はなかった。珍しい事もあるもんだと思った俺は正直話しかけるのを躊躇ったがユウジ先輩の事が気になって声を掛ける。「ユウくんは先生に呼ばれて職員室に連れてかれたわよん」と花を飛ばされて返された時はうんざりしたが特別何かあったわけではないようなので安心した。あの人の事だ、きっと「小春ぅうう」と半べそで嘆きながら連れていかれたに違いない。
 少しだけホッとした表情を見せた俺に小春先輩はキモい笑みをにこにこと浮かべていて不愉快に感じた俺はそっと睨みつけた。それでも「怖いわぁ、可愛い顔が台無しよ!」と懲りずにぶりっこした先輩に俺はとうとう嫌気を通り越して怒りを露にし始める。しかしこの人はどんなに俺が罵ってもひらりひらりとかわしてしまうのだ。
 なんでユウジ先輩は俺よりもこの人が好きなんだ。なんでユウジ先輩はこの俺よりもこのハゲが好きなんだ。俺のどこが劣っているというのだ。あーうっとうしいうっとうしいうっとうしい。

「アンタ、ユウジ先輩を好きとちゃうんですよね?」

 ため息を吐いて低い声でそう言うと小春先輩は数回瞬きを繰り返した。なにをきょとんとしてんねん。しらこい極まりない。

「だったらなんでユウジ先輩を必要以上にたぶらかすんですか、その気がないんなら変にちょっかい出して期待させるような事せんでください」
「人聞きの悪い事言わないでぇな光くん!あたしらのプレイスタイルやねんで」
「そんなん百も承知っすわ、そうやなくてアンタならユウジ先輩の言動がコンビとしてのコミュニケーションかそうじゃないかぐらいの判別は出来るでしょ。ユウジ先輩落ち込ましてダブルスに支障が出るんはそりゃあかんかも知れませんけどそれだってアンタなら上手くやりくり出来る筈やしあない過剰に期待させるような事しなくたって……」
「光くん」
「……っ」

 ああもうそんな屁でもないような顔すんな腹立つ。分かってるよ、分かってますわ。先輩らは唯一無二のダブルスでありラブルスで、少しでも違和感が生じたらすぐに成立しなくなる事ぐらい分かってる。テニスプレーヤーとして今の小春先輩は最善なのだ。ユウジ先輩だってあの性格からするに後々完全にフラレたとしても結局は自分よりダブルスを優先した小春先輩に感激するんやろう。やから小春好きやねん!と叫ぶユウジ先輩が容易に想像出来た。せやけど、

「納得なんて、出来ひん……」
「色々深読みしてるみたいやけど光くん、現実はいつだってシンプルやねんで」

 それに、と小春先輩は続けた。

「偽善で救える命もあるのよ」

 だからユウくんはあ・た・し・の!と言い捨てて小春先輩は通り過ぎていった。呆気にとられる暇もなく女物の甘い匂いを残していった先輩はユウジ先輩の本質をよぉく理解していらっしゃる。そのうえでたぶらかしてやってそれがユウジ先輩の救いとなっていて結果小春先輩にも都合良く事が進んでる。甘い匂いを嗅ぎながら思った。
 これは、遊女の匂いだ。


純情失踪事件
(ユウジ先輩は小春先輩がいないと死ぬ。答えは至ってシンプルだ)


タイトル:Aコース
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