~2010 | ナノ




 いつだってアホとホモ丸出しのユウジ先輩は人がドン引きするぐらい元気だ。しかしそんなユウジ先輩にも人並みに(それでも本当に極稀にだけれど)落ち込む日があるみたいで、特にこれと言った理由はないらしいのだがただひたすらに気持ちがどんよりとするらしい。部長とか謙也くんが気を利かして声を掛けたりもするのだがいかんせんユウジ先輩はうわの空で、返事をしたとしても変に誤魔化すか「大丈夫」の一言しか答えてくれない。次の日になれば必ず回復しているのだが、どうにも煮えきらないのが正直なところだった。「難しいやつやなぁ」と素直に言った部長に隣にいた謙也くんが曖昧そうに笑って「ま、小春に任しとくんが最善やな」と言ったので、ユウジ先輩は小春先輩がいないと死ぬんやろうなぁとその時改めて思った。
 正直こういった時のユウジ先輩は嫌いである。恋人である俺をさし置いてひとりでどんどん沈んでしまうし、助けようと手を伸ばしてもへらりと笑ってかわしてしまう。挙げ句の果ては小春先輩に助けを求めて俺の存在ないがしろ。いっそそのまま死んだったらええねん、ほんまに腹立つ。
 今だってそう。ユウジ先輩がいないと思って部室に探しに来てみればユウジ先輩は誰もいない静かな部室でただ一生懸命に小春先輩にすがりついていた。電気もつけずに薄暗い部室のベンチに腰を掛けなにをしているのかと思えば、限界に達したユウジ先輩がとうとう小春先輩に泣きついているところだったのだ。困ったように苦笑しながらそれでもどこか優しげな表情でユウジ先輩を宥めている小春先輩の表情はとても慈愛に満ちていてまるで親と子供のよう。小春先輩の首にぎゅうっとしがみついているユウジ先輩は肩口に顔を埋めたまま、時たま小春小春と呟いている。そのあまりに情けない呟きが泣いているように聞こえて俺はどうすれば良いのか丸っきり見当がつかなかった。
 ユウジ先輩は俺が扉に寄り掛かりその光景を目の当たりにしてるだなんて全くもって気付かない。俺の存在なんてどうでも良いというようにユウジ先輩は繰り返す。小春、小春、小春。

「ユウジ先輩」
「小春小春」
「ユウジ先輩ってば」
「小春小春小春」

 苦虫を噛み潰したような面持ちで名前を呼んでも気付かない。近付いて肩を揺すっても気付かない。自然と歪んでしまった俺の表情は小春先輩から見たら恐ろしいほどに滑稽だったのだろう、だからこそ小春先輩は複雑そうに俺を見上げて「ごめんなさいね」と言ったのだ。
 いっそそのままふたり仲良くいとも無残に死んじまえ。



人知れず繰り返す蘇生、光を抱いた憧憬:彗星03号
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