~2010 | ナノ




 ジリリリリ、ジリリリリという目覚まし音は実に不快で、眠気眼を無理矢理こじ開け霞む視界からマジうるさい目覚まし時計を探し出してはそれを乱暴に止める。喧しい騒音から逃れた俺はボフンッと枕に顔を埋めた。
 この目覚まし時計の騒音から俺はとにかく免れたくて今まで幾度となく目覚まし時計を破壊してきた。故意にじゃなくてあくまで無意識のうちになんだけど散々買っては壊し買っては壊しを繰り返してきた俺に向かって跡部はため息混じりに「金と資源の無駄だ」と頭を叩く。跡部でも金の無駄とか考えるんだなぁとちょっと失礼な事を思った。

 しかしそう言われても目覚まし時計がなくちゃ俺はますます起きられない訳で、そうごちた俺に跡部は少し思案して後日新しい目覚まし時計を自ら俺に差し出してきた。今まで使ってきたものより幾分かは高そうだが所詮は目覚まし時計……結局今までと変わらない。アンティーク?って言うの?良く分かんないけど。
 だがしかし、跡部は俺の心理を手玉に取っていたらしい。跡部からの贈り物というだけでたちまちブランドになるそれは俺に「壊しちゃいけない」という意識を無意識のうちに埋め込んだ。
 そしたらなんとまあ、不思議なもんで俺はその目覚まし時計を壊しそうになる直前にハッと目が覚めるのだ(音を止める時の乱暴さはあまり変わらなかったけど)

 しかし、だ。起きれたからと言って俺が素直に活動を始めるとは限らない。二度寝は日常茶飯事だしなんかもう怠惰なのが俺のなかに根付いちゃってんのね。ごめんね跡部、俺は今日も遅刻します。
 はー、さてさて、じゃあそういう事で俺は二度寝といきますか。そう呑気にあくびを溢して俺は再び布団にもぐった。

 それから何分経ったのだろうか、恐らく10分も経っていないうちに今度はピリリリリ、ピリリリリという電子音が俺の睡眠を妨害する。喧しく鳴る音に重い瞼をこじ開けるとその音の正体は枕元に投げ出してあった俺の携帯電話だった。あーもう誰だよ、と俺はその時疎ましく思ったがこんな時間に電話が掛かってくるなんて珍しい事この上なかったので俺はとりあえず跡部じゃない事を願って通話ボタン押し耳に当てる。瞼がこれ以上開く事を拒否したのでディスプレイは見なかった。

「もしもし……」

 当然ながら俺の声は寝起きで掠れているうえに睡眠を邪魔された不機嫌さも相まってちょっと低い。しかし受話器の向こう側から聞こえた明るい声に俺の瞼はかっ開いて脳は一気に覚醒した。思わず布団から飛び起きる。

「ままま丸井くん!」
「よぉ、お前今日暇?」
「え、え、え」

 一気に興奮し過ぎて軽いパニックに陥った俺は盛大にどもった。今日?今日暇?今日って学校じゃないの?実は休日だったりすんの?

「暇だったら神奈川来ねぇ?今日ちょっと訳ありで学校サボりてぇんだよ」
「い、行く!行く行く!超走ってく!」

 マジで!こんなに嬉しい事はない。滅多にない丸井くんからのお誘いVS学校、だなんて丸井くんからのお誘いの方が圧勝以外の何物でもない。学校をサボるような馬鹿にはなっても良いがここで大好きな人からの誘いを断るような馬鹿にはなりたくなかった。なんかもうめちゃくちゃだ。どうでも良い、どうとでもなれ。いざ神奈川へ、ジロー行きまーす!

「ぶっ!」

 丸井くんに快く返事をした俺は惜しみながらも電話を切って仕度を始めた。まずは顔を洗おうと立ち上がり勢い良くドアを開けた時である。確かにドアは開けたのに思いっきり顔面を強打して後ろに尻餅を付いたのだ。鼻に痛手を負った俺は一瞬訳が分からなくてドアの方に視線を寄せると確かにドアは開いていた。開いていた……けれど!

「なんだ、いやに今日はやる気満々だな?」
「あははは……おはよう、跡部」

 タイミング悪!と俺はその時真っ先に思った。ドアの前には朝から清々しい笑顔の跡部が立っていたのである。今まで催促しない限り滅多に迎えになんか来てくんないくせに、今日はどうやら滅多に起きない事がたくさん起こりうる日のようだ。

「なんでいんの」
「そろそろお前がサボりそうな予感がしたんだ」
「……あ、そう」
「で?」
「え?」
「なんで朝からそんなテンションなんだよ」
「……」
「その握ってる携帯電話が関係してんのか?アーン?」
「きょ、今日は察しがよろしいようで……」
「お陰さまでな」

 そう言って不適に笑う跡部はどんなに俺が頼み込んでも土下座をしても一生のお願いと言っても神奈川へ解放してくれる気配は微塵にもなかった。こんな嬉しい事一生のうちにそうそうないんです、見逃してくれたら後でなんでも言う事聞くからお願いお願いお願い、今日だけだからマジ跡部これマジだから跡部お願い!

「今日の日替わりランチは中華らしいな」
「〜〜跡部のばぁか!」

 目覚まし時計破壊してやる!

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