~2010 | ナノ




「泡ってうまそう」

 って言ったら馬鹿かって言われた。だってほら見てみなよ、ふわふわしていて柔らかで甘い匂いがしてるんだ。ワタアメって言ったら大袈裟かも知んないけど、食べられないのがとても不思議なぐらいおいしそう。
 そう思って体を洗ってる跡部にふうっと泡を吹きかけたら水に溶けて跡形もなく消えてしまった。


 跡部の家の風呂は広くて綺麗で、なんと泡風呂だって出来る。それに感動した俺はただ単純に入りたくてただ単純にひとりじゃつまんないと思ったから跡部を誘ったのだけれど跡部は断固としてそれを拒否した。俺はただただ入りたい一心だったのに跡部は「しつこい」と言って俺にゲンコツまでかますしマジ意味分かんねぇ。損した気分だ。しかし、なぜ?と疑問がいっぱいの俺に跡部はしぶしぶ承諾し今に至る。

「なんであそこまで嫌がるかなぁ、こんな楽しいのに」

 俺はそう言うと跡部に向かってまた泡を吹きかけた。漫画みたいにシャボン玉がふわふわ浮いたりはしないけど、これはなかなか楽しい経験だ。

「合宿ならまだしも15になってまで一緒になんか入ってられっかよ。それも泡風呂にはしゃいで」
「楽しいじゃん」
「お前はな」

 風呂はみんなで入ってこそ楽しいという俺とは少し違った跡部の価値観を垣間見る。風呂は一人で入るもんだってのは固定概念だと思うけどね俺は。狭いならまだしもこの風呂みたいに広けりゃ尚更だし、俺今は全然入ってないけど普通に兄ちゃんとなら風呂入れると思う。妹とはむしろずっと入ってたいね、ぜひ。
 これは兄弟がいるのといないのとの違いなのだろうか。

「んー、じゃあ今が10年前だったら普通に入った?」
「アーン?5歳なら入ったんじゃねぇの」
「跡部の5歳かぁ、可愛らしそう」

 なんかこう、今と違ってシャイだったら可愛いよね。滑舌とかすげぇ悪くて自分の事「けいぎょ」とか言ってたら抱き締めたいほど可愛い。俺こう見えても小さい子の扱いは良く誉められんだよ。知ってた?

「お前はどうなんだ」
「んえ?ああ、俺の5歳?俺はきっとー……」

 まあ現実は今と対して変わんないんだろうけど。でもちょっと会ってみたい気がするのは多分気のせいじゃない。
 俺は少し思案したが正直5歳とか良く覚えてないしどうせ寝てたんだろうなぁと思うと少しばかり面白味に欠けた。しかし結局のところ今が馬鹿なんだから昔はやばいぐらいの確率で相当な馬鹿だ。だからきっと、

「今と変わらずに泡食ってただろうね」

 15歳の俺は泡は食べられないという事をさすがに理解しているけれど5歳ともなればそれも危うい。また跡部に馬鹿にされるかなぁと半ば諦めてそちらに視線を寄越せば、あらあらまぁまぁ!
 泡まみれになりながら「変わんねぇな、お前は」と笑った跡部は官能的で(髪が肌に貼り付いて死にそうなほど色っぽい!)とりあえず俺はきゅんとしてしまった。なんだかそれに耐えきれなくて誤魔化すように体を湯船に沈ませていっそのこと頭まで浸かる。その時とてつもなく5歳に戻りたいと願ってしまったのは15歳の体が少し(いや、だいぶ)あの頃とは異なっているからだろうなと思った。

 あの泡なら冗談抜きで食えそうだ。

「うげぇ、口に入った!まっず!」
「お前馬鹿だろう」


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