~2010 | ナノ




 俺、メールは嫌い。だってめんどくさいじゃん。メルアド聞かれたらそりゃ教えるし全くメールしないわけじゃないけど、なんていうの?とりあえずアドレス交換してメールでお互いを探り合うみたいなやつがうざいぐらい億劫。だったら喋ろうよって思うのにメールからってやつとかいるじゃん。それが嫌い。
 特にあれ、好きなやつとかなら凄いそう思う。好きなやつ相手にもメールからみたいなのあるじゃん。あれ特に嫌い。回りくどい。

 ぴろりろりん、と音楽が鳴ったと思ったらそれはケータイからで常に開きっぱなしのケータイを覗くとそれは跡部からのメールだった。そういえば跡部とは比較的多くメールをするけれどアドレスを交換し合った時の記憶が全くと言って良いほど皆無だ。どっちが先に交換しようって言い出したんだろう。

 部屋の床に気だるく寝転がりながらメールを開くとそこには業務連絡だけが記されたなんともシンプルな文面が綴られていた。文末には「明日の朝練には監督がくるぞ」とあって、ああ行かなきゃなと思う。
 俺は岳人とのメールは嫌いじゃなかった。だって楽しいし飽きないから。岳人の場合昔から一緒で初めてケータイを持った時には既にお互いを知り尽くしていたから特に抵抗もなかった。相手を知り尽くしてからのメールの方がずっと楽しいように思う。ああ、当たり前か。
 俺はメールへは返信せずにアドレス帳から跡部の名前を探し出すと通話ボタンを押した。跡部はあ行なので一発で探し出せて大変便利だ。そういえば跡部もおんなじような事を言っていたかも知れない。

「あ、もしもしもし」
「なんだよ」
「明日起こして欲しいな」
「てめぇで起きろよ」
「出来ないから頼んでんじゃん」
「向日に頼め」
「岳人はダメ。忍足がいなかったら俺と一緒。良いじゃん、俺あ行だからさ、電話掛けるのに手間掛かんないっしょ」
「それはお前の思い込みだ」
「えー、嘘だよ。それに俺跡部に電話掛ける時手間感じた事ねぇし」
「はあ……しょうのねぇやつだな、お前は」
「サンキュー跡部」

 俺は氷帝の不真面目代表なので朝練は月に二回程度しか参加しない。それでも一応レギュラーだから俺を慕う後輩は多少なりともいるらしい。俺を慕うとかお前の目は節穴か。俺に憧れる要素なんて微塵にもないと俺自身は思ってる。なんかそれって我ながら泣けた。
 でも、なんだろう。俺に向けられる視線は憧れとは少し違って見えて、例えるなら羨望に少し似ていた。多分このぐにゃぐにゃとした手首とかかな?とも思うけど、こんなものなんかより俺は鳳のような背丈が羨ましいし欲しいなぁと思う。結局俺に向けられる視線は、ああいった手首のような恵まれたものがあれば自分もレギュラーになれたかも知れないのにという俺を舐めきっているものに違いなかった。憧れと、嫉妬に近い羨望。天と地ほども違う二つの感情は俺の無価値さを演出しているようである。(つまりは俺自身に憧憬を受ける器がないって事)

「あー、やっぱ無理かも。寝ぼけて出るか切るかして無駄かも。だから迎えきて」
「アーン?てめぇ寝ぼけてやがんのか」
「まさか」

 見てよ俺のこのぱっちり二重、と言ったら見えねぇよと言われてしまった。そりゃそうだ。

「とにかく明日迎えに行ってやるからきちんと起きろよ」
「努力する」
「んで、朝練に顔出す限りはきちんと体動かせよ」
「んー、まあ、努力する」
「おい」

 全くお前というやつは。切るぞ。と電話の向こうの声がなんだか惜しくて、それでも俺はうんと頷いた。跡部はいつだって忙しいので長電話は申し訳ない。

「あとでメールするよ」

 けれどやっぱりなんだか惜しかったので俺はそう言ってから電話を切った。なんだかんだと言いつつもメールは便利かつとても素晴らしい。

ひるがえすてのひ


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -