~2010 | ナノ




「お金じゃ買えないものが欲しい」

 そうに言ったのはジローだった。誕生日になにが欲しいと尋ねたらそういう風に返されて、その時は安上がりだなと鼻で笑ったもののいざ考え出すと一向に正解が出てこない。頬が溶けて落ちるほど美味い絶品な料理、金がかかる。世界にひとつしか存在しない特注のアクセサリー、金がかかる。お得意の花、金がかかる。いっそのこと物ではなく景色、すなわち旅行、金がかかる。金がかからないもんってもはやこの世にあるのかと柄にもなく頭を抱えて悩んだ俺は挙げ句の果てにこう答えを出した。

「俺様を一日貸してやる」

 つまり今日だけはお前の良いように使われてやるよという事なのだがジローはそれが分かっているのかいないのかとりあえず目をキラキラと光らせてありがとうと礼を述べた。そしてさっそくと言わんばかりに催促(この場合命令か?)を実行する。

「テニス!テニスがしたい!」

 それじゃああまり普段と変わらねぇじゃねぇかとも思ったが、普段は時間の都合で我慢をさせる事が多く部活でもあまりジローとは試合をする機会がないのでそうでもないかと改めて快く引き受けた。今日一日従順だとは言っても手加減はしねぇ。使い慣れた自宅のテニスコートで華麗に勝利をおさめると俺は息を上げているジローのために飲み物を使用人に持ってくるよう頼んだ。
 夢中で打ち合いをしていたからだろう、その頃にはすっかり空はオレンジ色をし始めていて掻いた汗が寒さを催した。ジローは汚れるのもお構いなしで(既に汚れてはいるのだが)地面に仰向けに転がって荒い呼吸を繰り返している。そんなジローに歩み寄って持っていたタオルで汗を拭ってやった。

「ありがとー、跡部」
「なかなかの健闘だったんじゃねぇの?」
「だって、すげぇ頑張ったし、俺」
「誕生日プレゼントが俺とのテニス、そんなんで良かったのか?」

 やはり、それだけだと俺の方が満足出来そうになかったので一応他のプレゼントを買って用意はしているのだが。

「うん。すっげぇ満足。だけど、でもまだ一日経ってないから終わりじゃないっしょ?」
「ああ、そうだな。そんなにバテてんのにまだなんかして欲しいのか」
「欲しい」
「なにを」
「お金がかからなくて凄く幸せな事」
「またそれか……」

 ここにきて、俺を散々悩ませたプライスレスな謎かけが性懲りもなくまた出てきたので俺はたまらず目元をおさえた。さすがのインサイトもこの場ではどうにも役立たずで、ジローが欲しているものの見当が全くと言って良いほど見つからない。とりあえずジローをじっと見ていると息が落ち着いたのか仰向けだった体の上体を起こして俺を見つめ返してきた。俺達の周りには誰もいなく先ほどまでいた使用人も飲み物を頼んだおかげで姿が見えない。
 なにも言わずにじっと見つめてくるジローに俺もなんとなく言葉を発さずに見つめ返してお互いが沈黙を守るなかただただ見つめ合っていた。思えばそういった空気であったからかも知れないが今となってはどうでも良い。俺は流れるようなごく自然な動きでジローへと体を傾けるとそのまま長く口づけを交わした。飲み物が到着したのであろう人の気配を感じてからやっと唇を離すとその先にあったジローの顔は予想外にも満面の笑みを浮かべていて、それを確認してからやっと俺はジローの欲していた本当のプレゼントを理解したとともにプライスレスな謎かけの意味を知ったのだった。

「ジロー、誕生日おめでとう」
「うん、跡部、ありがとう」
「欲しいもんぐらい素直に口に出してみたらどうだ?」
「やだよ、照れくさい」

終100505
プレゼントは最上級に大好きな君の、
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