~2010 | ナノ




「お前俺んちの電器屋でなにしてんの?」

 向日岳人は父が働く大手の電器屋で見知った顔を発見するとそう声を掛けた。声を掛けられた人物は別段驚いたふうもなくゲームが置かれている一廓でうんうんと唸っている。

「岳人、この新作ゲームもっと安くなんねぇの?」
「無茶言うなよ、おおもとに言え」
「うーん、お金足んない」
「これあれだよな、宍戸も騒いでたよな」
「そうそう」
「あー、なんか侑士も言ってた気がする」
「岳人も買いなよ、通信しようぜ」
「お前が買ったら買うわ、ジロー」
「えええ、そう言われちゃうと余計欲しいじゃん、今」

 どうせ金足んないんだから悩んでも仕方ないだろうに。と思いながらも岳人はなおもうんうんと唸っては悩んでいるジローに黙って付き合っている。そして思い出したように喋り出すのだ。

「つーかお前今日誕生日じゃん、跡部に買ってもらえば良くね?」
「あー、それがダメなんだよねぇ」
「なにが」
「そんなもんしてる暇があったら外に出てテニスしろって買ってくんなくてさぁ」
「ぶはっ、オカンかよ!」

 ぶははっと堪らず吹き出した岳人にジローもつられて笑った。思えば性格はおろか趣味も一向に合わない二人が良く親密になれたものだなと岳人はその時密かに思う。恐らくウマがこれでもかと合うのだ。絶対そうに違いないと一人で勝手に納得すると岳人はなおも会話を続けていった。

「今日は跡部と会わねぇの?」
「ううん、これから会うよ。さっきもメール来たし」
「あ、メールと言えばお前俺のおめでとうメール無視したろ!」
「寝てたんだよ〜、ごめん」
「まぁ0時きっかりに送ったから仕方ねぇか、ジローは」
「そうそう、ちゃんと嬉しかったよ、ありがとう」
「俺以外からはちゃんと来たのかよ。祝日って得なのか損なのか分かんねぇよな」
「んー、忍足からは来たかなぁ。跡部と樺地はこれから会うし宍戸は鳳のアドレスから一緒に来た。あ、そうそう日吉からもちゃんと来てさ、俺その時二度見しちゃったよ」
「マジで!?あいつ俺ん時はシカトしたくせに!」

 既に店内である事を軽く忘れている岳人がそう叫んだのと同時に妙に眠気を誘うメロディがジローの左ポケットから聞こえて来た。ピロピロピリンというそれがメールである事を岳人が察すると携帯電話を開いたジローはなんとも眠たげな声で「跡部だ」と呟く。

「もうこっちに迎え来るって」
「おー、たっぷり祝ってもらえよ」
「うん、そうする。あーあ、結局ゲームはおあずけか」
「どんまいだぜジロー、じゃあまた明日な。朝練来いよ」
「明日の俺が行く気だったらね」

 お互いに笑いながら言うとジローは携帯電話を閉じてゆったりと歩き出す。その足取りたるや眠そうでふらふらと覚束なくて苦笑した。その際今更ながら確認したジローの服がこの前一緒に遊んだ時におおいに汚した服である事に気が付いて、さすがクリーニング屋。まるで新品のようにまっさらになっているその服にちょっとばかし感動する。

「そうだ、ジロー、俺制服汚したからあとでお前んち持ってくわ」
「ん、分かったぁ」

 岳人の言葉を遠くで聞いてまったりと頷いたジローは手をひらひらと揺らすと「またね」と言って角を曲がり姿を消した。完全に見えなくなったジローの後ろ姿をなおも頭に思い描くと岳人は先ほどまでジローが手に取って悩んでいた新作ゲームを棚から手に取り静かに口角を上げる。あ、ジローがこれを手に入れたら俺も買う羽目になるんだったと気付いたのは既にレジに持っていったあとで、二個買うのはキツイぜオイとは思ったものの綺麗な包装紙に包まれたそれを店員さんから受け取ると岳人はとりあえず満足そうに破顔したのだった。


終100505
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