~2010 | ナノ




「背が無駄にでかい奴は口々に馬鹿げた事を言いやがる。やれ小さくて可愛いだのやれ子供料金で済むだのやれかくれんぼに有利だの、自分の背丈を見せびらかしては俺をせびらかす頭の軽い連中ばかりだ。じゃあてめぇは158センチになったらかくれんぼ名人にでもなんのかよ!と俺が言えばマジ勘弁とかほざきやがるしいっそもう天井に頭打って死んでしまえ。
正直に言うと俺は初対面相手には若干見栄を張って少しだけ高く見積もって身長を言うんだ。何故かって言ったらみんながみんな口を揃えて身長いくつ?って聞きやがるんだよ。面白半分のその問いに真面目に答えるなんて屈辱以外の何物でもないだろ?どうせそれを聞いてもそいつらは笑うしかしねぇんだ。鉄棒に頭打って死んでしまえ。
ああそうだよ俺は158センチだよ。そうに言えば満足なのかよ。女子平均サイズの何が悪いっていうんだ。そう思うだろ?自分で伸ばせられるんだったらとっくに伸ばしてるしカルシウムだってきちんととっている。それでも背が伸びないのはもう俺自身のせいではないし必要以上にイライラするのも俺の責任じゃない筈だ。じゃあ俺は誰を恨めば良いんだ、と考えて行き着いた先はとりあえず背の高い野郎どもだった。
逆恨み?なにそれ美味しいの?生憎だが俺の辞書にそんな言葉は載っていない。
そんなイライラを抱えて俺は今日、身体測定に挑んだ。一世一代の身体測定は視力、聴力ともに良好。体重は少し重くなっていて期待が出来る。心臓がばくばくと脈打っては酷く落ち着かなくて今日一日中ずっと吐きそうだった。そしてとうとう、美人と評判高い養護教諭から運命の数字が言い放たれる。

………………瞬間、俺は叫んだ。

お前にも俺の悲痛な慟哭が聞こえただろ?見ろ、ほら見ろ!中学三年生、最高学年になった俺の身長を見てみろ!ひゃく・ごじゅう・はちだ!何度見たって158センチ、1ミリも伸びてやがらねぇ!クソクソ、だから俺は考えてみた。俺は昔からせっかちだの良く言われているから多分母ちゃんの腹ん中に身長を忘れてきたんだ!それぐらいの理由がないと納得なんて出来やしない。弟の奴が俺の忘れ物を拾ってきてくれていれば良かったものを、どうやら弟は俺に似て気の利かないやつに生まれてきてしまったらしい。しかし俺はそこまで考えて、はたと気付く。そういえば俺は体脂肪はほとんどないし、筋肉質。俺は結構好き好んで体操とかを見るから選手も知っているんだが、凄い選手って言うのは案外背が高くなかったりする。幼少の頃から鍛え上げて筋肉をつけてしまうとどうにも背が伸びにくくなってしまうらしいのだ。だとしたら俺はアクロバットを完成させるために率先して鍛えているし筋肉だってついてるからもしかしたら体操選手と同じなのかも知れない。そこに成長の遅さも相まってこのサイズなのかも知れない。その考えに行き着いてからというもの物凄く心が軽くなって身長が伸びないのにも納得出来た。俺は身長が伸びない原因って分かってもアクロバットをやめる気はないしプレイスタイルを変える気もない。だからそう気付いてからはこのコンプレックスが少しだけコンプレックスじゃなくなったしアクロバットに救われた。俺の身長を馬鹿にする奴は相も変わらずムカつくけど前ほどイラつきはしないしいっそとても清々しく思える。
しかしそこでよぎったのがお前の存在だった。俺の158センチという数字の理由はきちんとしたけれどお前の160センチという数字の理由は不明確なままで、むしろ疑問ばかりが浮かんでる。

俺はお前がいて本当に良かったと心底安心してるんだ。だってお前がいなかったら俺はただ一人小人だったわけで、そんなの想像するだけで足がすくむ。だから俺はお前のために原因を追及したいと考えた。けれど考えれば考えるほど俺には全く分からない。お前は率先して体を鍛えるような奴でもないし筋肉も人並みで好き嫌いも特別目立たない。むしろ良く寝るし俺みたいに夜型ってわけでもないから成長ホルモンはきちんと分泌されている筈だ。なのに伸びないってどういう事だ……?だから、俺の拙いオツムじゃ考えに限界があるけど俺なりに必死に考えてみた。原因が分からないんじゃ、きっと理由は別のところにあると思う。お前はきっとなにかのためにその身長であるべきなんじゃないだろうか?まぁいわゆる、逆転の発想ってやつだ。

こう言うのもなんだけど、正直言って俺よりもお前の方が可哀想な気がする。決定的な理由もなく背が小さいだなんて今の俺からしてみたら耐えられないし絶望的だ。お前は俺みたいにあまり身長の事をとやかく気にした事はなかったけれど、むしろお前の方が積極的に気にするべきなんじゃないかと思う。というのも理由がないと納得出来ない数字だと思うんだ。俺がアクロバットに救われたように、お前もいち早く理由を見つけられるよう俺は祈ってるから。だからジロー、頑張れよ!



……って、岳人に言われて俺ショックで死にそうなんだけど跡部はなんのために俺の身長はこのサイズなんだと思う?」

 そうに読書にいそしんでいる跡部の肩をガクガクと揺らしたら跡部はしばらく考えてからこう言った。


「…………俺の肘置きじゃねぇの」



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -