~2010 | ナノ




 地球が丸い理由を君は知っている?


「それはきっと、四角だと角にある国が大変だからだからじゃないの」
「バカかお前」
「実は真剣ですけど、俺」
「バカは今更過ぎたな、バーカ」
「樺地!跡部が俺を苛めるよ!?」


 樺地!とこの場に居はしない頼れる後輩の名前を叫ぶジローの頭を真上から叩いて黙らせた。それに痛いと文句を言ってきたので親指の腹で無言のままにツムジも押してやる。慌てっぷりが実に愉快だ。

「跡部うぜー超うぜーツムジ押すとかとんだ鬼だし」
「全力でアホ抜かすからだ」
「じゃあ跡部はなんでだって言うんだよ」

 ぶーたれながらコタツに潜るジローに問われ考えてみる。ちなみにここはジローの家のジローの部屋で。ついでに言えばなんとなしに付けていたテレビから流れてきた「宇宙を解明しよう!」という教育番組から今の話題に飛んでいる。

「地球に限らず星は丸いもんだからな。一番安定する形なんだろ」
「うわ、最もらしい事ばっかり言って」
「てめぇがバカ過ぎんだ」
「樺地!跡部が俺を!」

 また騒ぎ出そうと声を上げたジローを蹴って制しテレビに目をやった。テレビではちょうど月の話をしていてアポロ十八号が初の月面着陸を果たした映像が流れている。モゾモゾと唸りながらコタツから這い出してきたジローも俺に促されテレビにへと目を配った。

「月って年々地球から離れてんだって。いつかは見えなくなるって事だよね」
「そうなるな」
「恐竜時代の月って多分相当近かったよ。見たかったなぁ、恐竜時代の空」
「そうだな」
「でもさ、月が見えなくなっても地球はもう困らないだろうね」
「……」
「明るすぎるよね、今の地球は」

 いずれ月だけじゃなく星も見えなくなったりするんだ。日本ではまず、東京が。と呟く程度に言ったジローはいつもの眠た気な表情をしていてなんでか俺は胸が少し苦しくなった。

「月って良いよねぇ。俺太陽の方が好きだけど」
「まんまだな、お前」
「だって気持ち良いし、こう、メラメラ!って感じが」
「実際燃えちゃいないがな」
「嘘!?なんで!?」
「……はああ」
「ため息やめて!」
「バーカ」
「樺地!跡部が!」
「空気のない宇宙空間でどうやって燃えんだよ。そもそもあの光が火に見えるのか、お前は」
「痛い!痛い!痛い!」

 お決まりのクダリはたくさんだとジローの顔を鷲掴みにしながら俺はため息混じりにそう言った。大丈夫だろうか、コイツ。脳みそがきちんと入っていれば良いが。
 ワタワタと俺の手からがむしゃらに抜け出したジローは鼻息を荒く繰り返しながら俺を指差し、喧しく、言う。

「太陽の事なら何でも知ってますみたいな口振りですね跡部さん。ならば太陽の事全て言ってみれ!」
「噛むな」
「みれ!」
「……太陽系の中心をなす天体で恒星の一。太陽系の質量の約99.9パーセントを占め、中心部における原子核反応から得られたエネルギーにより発光する。地球からの距離は1億5千万キロメートル。質量は地球の33万倍。半径は地球の109倍。光度マイナス27等、表面は6千度に相当する光を放つ。外部には温度百万度のコロナがありX線や電波を放つ。日輪、火輪とも言う」
「……」
「広辞苑より」
「広辞苑熟読してんの!?」

 バカじゃないの!?とお前にだけは言われたくない言葉を叫んだジローの頭に今度は痛恨のチョップを食らわした。跡部が頭ばかりをターゲットにするから俺は背が伸びないんだとブツブツ嘆くコイツを無視してまたテレビにへと視線を流す。そういえば月の土地は買えると聞いた事があった。月への移住は遠からず叶えられる夢だろうとテレビの中の人は言う。

 月は、遠目に見て初めて人を魅了するのだと。誰かがそう言ったのをいつかに聞いた。


「例えばさ、遠くない未来に宇宙に住めるようになったとすんじゃん?俺は火星に住んで、跡部はー……隣の土星ね」
「火星の隣は木星だ」
「良いんだよそういう事は雰囲気で!で、そうになってもさ、テニスって出来んのかな」
「どうだろうな」
「テニス出来んなら俺どこにでも住める自信ある」
「そうだな」
「あ、でもやっぱりジンギスカン付きで。あと岳人」
「やめとけ、忍足付いてくるぞ」
「じゃあ跡部樺地付きに変更」
「ふん、懸命だな」
「へへ、正直跡部無しで生きてける自信は皆無だし」
「皆無だなんて難しい言葉よく知ってたな、偉い偉い」
「ちょっとここときめく場面っしょ!樺地!」



 地球が丸い理由を君は知っているかい?
 テレビで不意に問い掛けられたそれに何故だか胸を締め付けられた。また騒ぎ出したジローの頭をまた鷲掴みにして押さえつける。それは世界が繋がっている証明だとか、世界はひとつなんだとか、人の都合の良い理想のような理由は好きなだけ付けられるがそういえば本当の理由は知らないな、と思う。今まで興味も湧かなかった話題だったというのもあるだろう。だからといって今特別に興味が湧いた訳でもないが、何故だかその理由は目の前でもがいているこのバカに通ずるような気がして、湧いた愛しさと頑張ってカワイイ事を言ってみたのであろうご褒美に俺はそっと手を離し、そっと頭を、かき混ぜた。



「跡部、跡部、チュー」
「太陽系9惑星の並びを言えたら、くれてやる」



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