~2010 | ナノ




 湿度の高い部屋だった。あるいはそう感じていただけかも知れない。そう感じていた一瞬一瞬は酷く幸せで例えその一瞬一瞬が夢だったのだとしても酷く幸せだと思えた。
 例えば俺が女の子ならこんな幸せ味わえなかっただろうと思う。幾重の困難を乗り越えて今俺は湿度の高い部屋に君と共にいるのです。
 例えば俺が女の子なら周りの人間達に反対はされなかったでしょう。俺が女の子に生まれて来なかったばっかりに君にはえらい苦労を掛けたね。だけど俺が女の子だったら君とこんなに分かち合えはしなかったと思うのだ。男同士ってどこか特別でしょうから。
 例えば俺が女の子なら君も素直に俺を好きになる事だって可能だったでしょう。俺が女の子に生まれて来なかったばっかりに君には余計な苦悩をさせてしまったね。だけど俺が女の子だったら君は好きになってはくれなかったと思うのだ。そもそも出会うきっかけすらもなかっただろうから。
 例えば俺が女の子なら君をもう少し簡単に受け入れる事だって叶ったと思う。全く、俺が女の子に生まれて来なかったばっかりに面倒事ばっかり増えて何をしてても生きづらい。それでも俺を否定せずにむしろその胸に迎え入れてくれた君はきっとマリア様よりも素敵な神様だと思うんだ。

「……っ」

 俺は女の子ではないから君を受け入れるのにはちょっとだけ無理があって結合部から血を出してしまうのは否めない。痛いのは嫌だなぁと思うけどそれ以上に君ともっともっと深く繋がってしまいたいと思うから今我慢をしている。
 息が詰まって上手く息が出来なくて「力を抜け」という君の言葉も上手く実行出来なかった。深く息を吸って吐いて吸って吐いて吸って、止めて。耐える!

「あ、あとべ……!」

 けど、耐えるだなんて普段あまりしないからギブアップなんてもうすぐそこだった。俺は耐えがたい尻への痛みに心が折れてしまわないうちに俺の上に乗っている跡部の首に思いっきりしがみつく。跡部が状況を理解する前に俺はその思いっきりしがみついた腕で跡部を力の限り引き寄せ、上体を上げてくるりと回った。視界には戸惑いの表情を浮かばせながらシーツに埋もれた跡部の表情が広がっていて俺は壊れそうなぐらいドキドキ高鳴っている心臓をよそにそんな跡部ににんまりと笑う。

「バトン……タッチ」

 跡部の腹に手を付いて腰を浮かせた。自分のペースで出来る方がやはり良い。後々考えればこの体勢って俗に言うアレだよなぁとか思ったりしたけど理性なんてとうになかった頭ではまぁ仕方ない。と思う。
 空中で腰を定置させて息荒く深呼吸を繰り返した。ヒーヒーフーとかやってたら跡部に軽くひっぱたかれたがこちらとしては大真面目だ。ゆっくりと腰を沈めていくと痛さとは別になんでか嗚咽が漏れてくる。ゆっくり、ゆっくりと時間をふんだんに費やして、この際勝手に漏れてくる声は放っておいて、ただただ夢中に跡部を想った。

「ふ、う、う……んん」

 例えば俺が女の子ならもっと可愛らしい声を聞かせてあげられただろうに。
 例えば俺が女の子なら胸に物足りなさを感じさせる事もなかっただろうに。
 震える体を抑えて熱い息を短く吐いた。と同じタイミングで頬に白い綺麗な手が伸びてきて俯せていた顔を少しだけ上げ目だけで跡部を追う。涙目になってしまっているのか、視界がいやに冴えなかった。目が合って、ゾクリとして、熱くなる。熱さに負けて痛みがどっかへ行ったような気がした。

「あと、べ……跡部」

 俺は感情をストレートにぶつけられるという点においてはどうやら長けているようで、それは暗に顔に出やすいだけというか周りが見えていないだけというか、とりあえず端から見ても俺が跡部を好き好きという気持ちは筒抜けらしい。だから多分今もなんか好き好きビーム的なやつを放出していたのだと思う。だって跡部はこう言った。

「お前、俺の事好き過ぎだ、バーカ」

 だって好きなんだもん!そう言える今の立場がどうしようもなく、ああ、愛おしい。


(困難は時に最高の甘味だ)

終(題:Aコース)
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