~2010 | ナノ




 忍足は岳人が大好きだ。そりゃあもう大好きだ。のろけ始めればそれは長時間にも及ぶし下手したら無限に岳人の魅力について語れる。その為当然忍足のノロケ話に付き合ってくれる寛大な心を持った人間などいる筈もなく、それでも普段どうしても発散したい時はジローに全てぶちまけていた。ジローは熟睡していてほとんど話は聞いていないが忍足にとってそんな事はどうでも良くて、即ち何かと発散出来れば構わないのだ。それにジローは時折気まぐれに眠そうながらも忍足のノロケ話に耳を傾けてくれる場合があるので忍足はそれがとても嬉しい。
 しかし今日はどこで寝てしまっているのかジローをどうしても見つけ出す事が出来ず忍足は唸っていた。直ぐにでもこの張り裂けそうな想いを吐き出してしまわないと今にも爆発してしまいそうだったのだ。しかしジローは見つからない。忍足は最終手段に打って出た。

「せやかて宍戸に話してもキレてどっか行ってしまうし日吉は一切俺に近付かへんし鳳は苦笑いしながら聞いてくれるけど宍戸が来て連れて行ってしまうから長くは話せへんし」

「で、仕方なく俺様のところって訳か」

「おう」

 正直、跡部がまともに聞いてくれる筈もないと勝手に決め付けていた忍足は「話してみろ」と偉そうに言って来た跡部に少なからず驚いた。今日の部長さんはどうやら機嫌が良いらしい。

「岳人ってめっちゃ可愛いねん、見た目のキューティクルさだけちゃうよ?見た目のキューティクルさについてはこの前ジローに語り尽くしたから跡部には中身のキューティクルさを語っちゃるわ。あんな……」

 聞いて貰う立場でありながら軽く上から目線でモノを言った忍足だったがそれでも跡部は気にしていないようだった。今日の忍足はラッキーである。
 その後忍足は休みなく喋り続け気付けば時刻は昼休みの終わる五分前にまでなっていた。ほとんど聞き流して読書をしていた跡部は腕時計を確認し本を閉じる。目の前を見れば未だ飽きもせずにペラペラと饒舌に忍足が語り続けていて、持参して来たらしいペットボトルの水を時折飲んではいるようだがその飲むスピードたるや半端ない。コイツキモいな、と跡部は改めて思った。

「そしたらな、さっきも言った通りえらい恥ずかしがり屋さんやから真っ赤になりながら抵抗してくんねん、可愛いやろ?耳まで真っ赤にさせてふざけんな!とか言われても照れ隠しなんがバレバレやねん。あんまり暴れるから俺つい岳人の手首強く掴んでしまって、ああ、あの細さにはびっくりしたわ。で、握る力が強すぎて岳人の手首に赤い跡付けてしもうてん。めっちゃ焦って謝って、しつこくして跡まで付けて悪いん絶対俺やのに、せやのに岳人は謝る俺にこう言ったんや、何て言ったと思う?“俺が過剰に反応したのが悪かったんだ、だから侑士は謝んなよ。ごめんな侑士……その、慣れてなくて、つーか、恥ずかしいっつーか……えっと”」

 若干演技も加えつつ岳人の他人に知られたくはなかったであろう一面を赤裸々に語る忍足は思わず、ああ、可愛い!と標準語で全身全霊の想いを惜しげもなく叫んだ。その後も間伐入れずにベラベラと岳人について話す忍足によくもまあそんなに延々と語れるものだと半ば感心してしまう。いくら恋人とは言え、そう簡単にそんなに次々と魅力なんて口から出ては来ないだろう。忍足の場合自らが体験した胸キュンとやらの話を最初から最後までいらないジョークまで交えて話すものだから余計長くなりいつまで経っても話が終わらないのだが、それでも跡部は呆れるでもなくただただ感心した。まさか忍足に感心する日が来ようとは思ってもみない。
 良くそんなにポンポンポンポン言葉が出てくるな、と素直に跡部が口にしたら、忍足は一瞬きょとんとして不思議そうに首をかしげた。

「好きな奴の好きなところぐらい一つや二つ簡単に出てくるやろ。それが少し人より多いだけやん」

 きょとん、とそんな忍足の言葉に今度は跡部が一瞬固まる。瞬きを数回繰り返して、再度口を開いた。

「好きな奴の好きなところぐらい一つや二つ簡単にだと?」

「おう、ジローの好きなところ一つや二つ跡部かてパッと出てくるやろ」

 忍足のそんな台詞にそんなものか?と跡部は思うも、小さく息を吐きながら頭にジローを思い浮かべてみる。顎に手を当てて暫し思案し始めたそんな跡部に忍足も語りを一時中断して跡部が納得出来るのを大人しく水を飲みながら待っていた。しかし、それから数秒経つも、跡部からの答えは一向になく、むしろ眉間に皺を寄せ徐々に徐々にと顔が険しくなりつつあり、おまけに微かに額に汗が浮かんでいる。その状態にまさか、と忍足はある一つの答えが頭に浮かんだが何も言わずにしばらく硬直した跡部を黙って見詰め続けていた。

 ――数分後、チャイムが鳴ったのと全く同じタイミングで机を激しく叩きながら「…………いくら探してもありゃしねぇ!」と叫んだ跡部に忍足は盛大に笑ったという。

「叩きやすい位置にある頭は嫌いじゃねぇがそれはカウントされんのか!?」

「あかん、お前らおもろい」


テーマ:ジローの何処が好きかと問われて一切それが浮かばない跡部
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