~2010 | ナノ




「さぁ、体操の時間やでーみんな集まりやー」

 某スタジオ。
 ここでは今、月曜日から金曜日にかけての夕方に放送されている子供番組の収録が行なわれていた。歌のお兄さんやお姉さんが歌った後に続き、大阪弁の一風変わった体操のお兄さんが一緒に体操を行う子供達に声をかける。
 しかし個性豊かな子供達はお兄さんの声に聞く耳持たず、今日もお兄さんの大変な体操のお時間が始まります。

「樺地、茶」
「ウス」
「景吾くん足組みやめて集まって来いや。そして茶は終わってから飲もうな」
「あーん?俺様に指図すんじゃねぇよ」
「誰かこの子に正しい教育をしてください」
 スタジオ内にある休憩用のテーブルで優雅に足を組みながら家ぐるみで仲の良い一つ歳下の樺地宗弘くんにお茶を頼む少年は、目が飛び出す程の良いところのお坊っちゃま、跡部景吾くん。今日もピカピカの服とピカピカの靴を見事に履きこなしている。侑士お兄さんの今一番の天敵である。
「侑士!侑士!早くやろうぜ!」
「岳人は可愛えな、可愛すぎて拐いたいわ」
 そして泣きながらに頭を抱えている侑士お兄さんに楽しそうに跳びはねながら近付いて来たのは、侑士お兄さんが異常な程に溺愛している赤い髪にオカッパヘアが愛らしい岳人くん。すっかり犯罪者予備軍となってしまっている侑士お兄さんだが、それが功を奏したのか世のお母様達には子供好きのイケてるメンズとして好印象を持たれていた。
「そういうのを犯罪者予備軍というらしいですよ」
 しかし身近な子供達には筒抜けで、冷静な口調で岳人の少し後ろから毒を吐いてきたのは若くん。景吾に敵対心を燃やしている彼は酷く大人びた口調をしている。
「子供らしくないやつやな、憎ったらしい。お前も早うこっち来いや」
「芥川さんが起きません」
「またか……ちゅうかお友達なんやから名前で呼んだらええのに」
「一応歳上ですから」
「ひとつだけやん」
「番組の先輩ですし」
「どんな厳しい教育されてんねん」
「厳しいかどうかは分かりませんが苦ではありませんよ」
「……ほんまどないやねん」
 若の後ろの長椅子には三度の飯と睡眠とジンギスカンが大好きなジローくんが気持ち良さそうに眠っていた。起きていれば扱いやすいが一度眠ると厄介なのがまた彼だ。何度かテレビ局内の倉庫で眠って迷子騒動になった事がある。
 グチグチとため息混じりに若くんと会話をしながら、侑士お兄さんはジローくんを起こし始める。が、しかし。
「ほら、ジローくん起きー体操の時間やでー」
「ん、あとごふん……」
「10秒も待たれへんよー時間押してんねんからー」
 彼を起こすのもまた、至難である。

 そんな問題児達が集まる体操のお時間だが、きちんとした子もいるようで体操が行われるファンシーな広場には既にスタンバイしている子達もチラホラ見受けられた。
 その中ではちょっぴり照れ屋でそれでいてどこか兄貴気質のある宍戸亮くんと、ちょっぴり気弱な長身の長太郎くんが仲良さげに談笑をしている。
「ドキドキします」
「長太郎体操初めてだもんな」
「はい」
 長太郎は今まで別のコーナーでお得意のピアノなどを披露していたが、そのコーナーが放送を終了するため体操の時間に出演が変更になった。そのため今回が初めての体操の収録とあってドキドキと胸を高鳴らせている。
「あ、ジロー寝てやがる」
「え、あ、宍戸さん!」
 ドキドキとした緊張と些かの不安。本番が近づくにつれ不安が膨らみ始めた長太郎は手で胸を押さえた。
 しかしそんな不安の中、傍に居て欲しい亮は仲の良いジローの方へと駆け出してしまい長太郎は慌ててその背中を追いかける。
 違うコーナーだったが初めての収録の時不安と緊張で具合が悪くなった長太郎を励ましてくれたのが、たまたま同じ収録日だった亮だった。それ以来長太郎にとって亮は頼れる先輩として特別な存在となっている。



「ジロー!」
「ん?あ、亮くんや」
「ジロー、起きろー」
 ジローの元へ駆け付けた亮はペチペチとジローの額を無遠慮に叩き起こしにかかった。これでやっと起きるだろうとホッと少し胸を撫で降ろした侑士お兄さんは中腰から姿勢を戻し軽く腰を擦る。

「……あ」
「ん?」
 それと同時に侑士お兄さんの後方を見ながら隣にいる若が小さく声を上げた。その声に侑士お兄さんが何となしに振り返ると、そこには目を瞑りながらこちら全速力してくる長太郎の姿。

「し、し、宍戸さーん!」
「ふ……ぐっおおお!!」
 侑士お兄さんが何事かと目をパチクリとさせている間に、長太郎の頭は侑士お兄さんの股間に綺麗に見事にヒットをかます。
 歳上の亮や景吾よりも長身の長太郎の頭はちょうど侑士お兄さんの股間のところに位置していて侑士お兄さんは堪らず股間を押さえてうずくまった。
「長太郎、ジロー起こそうぜ」
「はい!」
 当の長太郎は亮しか目に入っていないらしく、ぶつかった事はおろか後ろの事態にさえ気づいていない。そんな哀れな痛がっている侑士お兄さんを若が何とも言えぬ表情で見下ろしていた。

「おおお、効いたぁぁ……」
「侑士、早く!」
「とんだ様だな。樺地、あれがなっちゃいけない大人だ」
「ウス」
「貴様、成長したら覚えとれよ……」
 小さく悶えたまま子供相手に大人気ない言葉を吐き、侑士お兄さんは涙目で身を起こす。赤い髪を揺らしながら急かしてくる岳人には困りつつも笑顔で頭を撫でた。
「何をだ?」
「岳人は俺と結婚するいう約束を覚えとれば良えで?」
「侑士と俺が?」
 頭を撫でられながら目を丸くして侑士お兄さんが吐いた言葉に岳人は疑問をぶつける。そして思いがけない疑問の返事に今度は無垢な瞳を見開いた。
「そうや、嫌か?」
「……ううん。嫌じゃねぇ」
「……さようか」
 決して冗談ではないが本気ではなかった侑士お兄さんは、岳人の笑顔でのその言葉が嬉しくてついにんまりと笑う。それは鼻の下を伸ばしたなんとも情けない笑顔だった。

「おら、忍足、いつまで地べたにひれ伏してやがんだ。早く終わらすぞ」
「跡部ー終わったら皆で遊ぼ?」
「ああ、良いぜ?」
 そんな幸せいっぱいの侑士お兄さんを現実に戻すかの如く景吾くんがタイミング良く言葉を投げる。彼はいつの間にやら目を覚ましていたらしいいまだ目を擦っているジローと遊ぶ約束を交わしていた。

「くそう、何様やねん。俺の方が一回りも二回りも歳上やっちゅうに」
 何かと景吾くんのその態度が気にくわなくも、侑士お兄さんは渋々ながら立ち上がり、岳人の手を引いて体操を行う広場へと足を向ける。

「今日は稽古があるので早めにお願いしますね」
「……可愛いげのない」

 横を歩く若の一言に更にゲッソリしながら、しかしそれでも侑士お兄さんは広場で騒ぐ子供達を眺めながら、ゆっくりと、破顔するのだった。


「はーい、楽しい体操の時間やでー侑士お兄さんと楽しく踊ろうなー」




20090107
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