「ハッピバーズデーディア樺地〜ハッピバーズデートゥーユー」
「……」
「いえーい拍手〜」
三が日も終わり。
テレビの中では今人気のお笑い芸人達が客から笑いをとっていた。何故正月にコタツで苺のショートケーキを囲みながらジローがはしゃいでいるのかと言うと、この日は樺地の誕生日だからで、樺地の家にケーキを跡部とジローが持参したからだった。
「樺地ロウソク消して消して」
ご丁寧に14本刺されたバランスの悪いロウソク達を樺地がジローに促されながら一吹きで消し去る。それを確認し改めておめでとうと笑ったジローに樺地も嬉しそうに微かに笑った。
「よし、早くケーキ食べよう。おせちに飽きてたからラッキー」
「ケーキ食べたさに祝ってんのか?」
「違うし!きちんと心の底から祝ってます。さぁ食べよう!」
「説得力ねぇな。なぁ樺地」
「ウス」
分けるのが面倒なのかロウソクを全て抜き終わったジローはこのままで良いよねと言うとホールのショートケーキにそのままフォークを突き刺し食べ始める。主役の樺地より先に食べるのも如何なものかと思うが不思議と不快ではなかった。
甘いものは好かない跡部は静かに紅茶を飲み、入り慣れているとは言えないコタツで羽を休める。樺地も進んで食べる方でもないが申し訳程度にケーキを口へと運んでいた。
「あ、俺年賀状出してない」
「今更の話題だな。俺のところには来たが?」
「うん。忍足にだけ出すの忘れててまだ出してない」
「……そういえば俺もだな」
「でしょ」
「まぁもう良いだろ」
「うん。ケーキ美味C」
正月で恐らく大阪の実家に帰っているであろう友人を酷くあしらったあとにいつものように会話する跡部とジローの二人を見ながら樺地は思いを巡らせた。
樺地はその風貌と無口な性格故にあまり人とコミュニケーションを取れてきた記憶がない。しかしそれが気にならなかったのは跡部がいたからと、日常が楽しいと思えるのはテニスとそれで知り合えた先輩や同級生がいたからだ。
特に跡部といると必然的にジローと過ごす時間が増えた。自分をはしゃぐ中の一員として見てくれているジローは一緒にいて居心地が良い。はしゃぐような樺地ではないが何かしらちょっかいを掛けて来てくれる人は樺地にとっては貴重な存在だった。
跡部と一緒の静かな空間も好きだが、そこにジローが加わり一気に場が騒がしくなる、そんな空間もまた好きだ。
「にしても早いね。もう4月には高校生だし」
「なのに成長は一切出来てねぇよな」
「どこらへんが!?」
「背が」
そういえば3月には二人は卒業してしまうんだと二人の会話を聞いて樺地は思い出す。会えない訳ではないので辛くはないが一緒にもう騒げないのかと思うとやはり寂しかった。
二人が同じところへ進学するのであればそれは叶うのに。という考えがよぎるが自分が口を出す事ではないしどうしようもない事なので樺地はそれ以上考える事をやめた。
「酷くね!?伸びたし!」
「ほう、その程度でか?」
「樺地!跡部が俺を苛める!」
確かに寂しくはあるが何故か不思議と二人とは別れる気がしなかった。跡部とはもちろん、ジローも。
樺地はそう叫びながら服を軽く引っ張ってきた半泣きべそのジローに「ウス」と一言返事を返し、服を握ってきた方の手に優しく手を添えてみる。
その仕草にジローはときめいたのか暫し口をマヌケに開けたあと
「俺樺地と結婚する」
と若干鼻水をすすりながらにそう言った。
「俺に足りなかったのは今みたいな可愛いトキメキだよ跡部。跡部のトキメキはハード過ぎてもはやトキメキじゃなかったんだよ。という事で俺樺地と結婚する」
「あーん?樺地だったら安心だな。おめでとう、幸せになれよ」
「うわあ樺地、跡部がいじわる言う!」
ジローの急な発言に一瞬戸惑った樺地だったがそれが跡部への小さな仕返しだったのだと気付き、まんまと仕返しを跳ね返されて泣きべそになってしまったジローを宥める。
こういったやり取りはもう慣れたものだった。
普段は気になどしてはいないが一応コンプレックスである背の事をいじられ、望んでみた返事も貰えずいじけるジローは端から見れば樺地より歳上には到底見えない。
しかしそんなジローを苛めながら楽しそうに口角を上げている跡部も普段は大人な雰囲気であるのに樺地から見れば不思議とそれは歳相応に見え、樺地はそれに内心微かに微笑んでいる。
来年もまたケーキを持って家へと祝いに来てくれるだろうか。一緒の空間を過ごす度、二人を好きになっていく。
そんな自分が誇らしいとさえ、樺地は思った。
「節分の日に馬鹿みたいに豆ぶつけてやる」
「また気が早いこった。せいぜいそれまで覚えていられるように頑張れ」
「……ウス」
終
2009/01/03
大好き樺地(+α)