~2010 | ナノ




「あけますねおめでとう」

現在年明け1分前
腕時計の針を目で追いながらそんな事を言うこいつは1分後には少し変わるのだろうか。

「今頃家はアイドルコンサートで盛り上がってるよ」

「紅白じゃねぇのか」

「うん、妹に毎年占領されてるから」

俺の家のバルコニーの手すりに俯せで身を任せ年が明けるのを待っているジローの上には星がチラホラと散った夜空が広がっていた。星は多くはないものの部屋の明かりと周りの建物からの明かりで特別暗くはない。
時計の針が12時を指せば向こうに見えるタワーから毎年恒例の花火も勢いよく上がる。


こんな遅い時間までよく起きていられたものだと目の前の金髪に感心してみれば、おのずと進むのはジローの腕にある秒針と己の両腕だった。

あまり寒くない今年の年明けはどうにも物足りなく
今だって風は冷たいものの冬にしては薄着だ。こんなのではせっかくの冬であるのに勿体無いと感じる。


「よんじゅういち……冷たっ!」


後ろからやつのコメカミあたりを両サイドから挟んで長い指を髪に埋める。ジローはそんな事を突然された事よりも、僅かに触れあった肌の冷たさの方に大層驚いたようで。腕をバルコニーの外に伸ばしながら低い呻き声をあげた。


「今のびっくりで目覚めた」


一人カウントダウンをしながらいつの間にやら寝始めていたらしいジローに、手が冷えたんだとでも言って誤魔化して、
子供体温だから温かいだろとついでに言ってやる。そしたら無謀にも後ろ向きでの頭突きを試みてきたので、咄嗟に腕や手の力を強めてなんとかそれを阻止した。
諦め悪くしばらく攻防していたが首が疲れたのがジローはダル気に力を抜くと今度は両手を上へと伸ばしてきて手探りで俺の頬を包む。包んできた手の冷たさにやはり冬なんだと実感しすぐ近くに来た多少緩めの腕時計の秒針をちらりと確認すれば年明けは目前で。

「跡部はあんまりあったかくないね」

外気に晒されすっかり冷えた頬は温もりを無くしていた。しかし俺もそっとコメカミから頬に手を降ろしてみればそこには変わらずの温かさがある。

「だから冷たい」

「お前は温いな。カイロか」

「せめて湯たんぽって言って」

今年最後の会話がこんなので良いのかは知った事ではないが
年が明けたらまずは恒例の挨拶よりも先に何かしら恥ずかしい言葉を放ってやろうと心に決めた。


ジローが俺の頬から手を離し自分の口許へと運ぶと白い息で手を温めながらチラホラしている星を見やる。
そんなジローの耳元に花火の音で掻き消されないようそっと俺は口を寄せた。




年明けとソレまであと3、2、1


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