派手な浮かれたイルミネーションは賑やかな街を更に賑やかに演出していて
行き交うカップル達がよくそこに映えていた。
夜遅くに出歩くなんてのは慣れていない訳じゃないけど、今夜はやっぱり特別で。イルミネーションで七色に光る侑士の眼鏡にさえ俺の心はときめいている。
俺の左手には先程買ったばかりでまだ温かいフライドチキンが握られていて、侑士の右手にはイチゴのたくさん乗ったホールケーキが大事そうに握られていた。
それは街中でサンタクロースの格好をした女の人と着ぐるみのトナカイから買ったもので
上にサンタクロースの砂糖菓子とチョコレートクッキーで出来た煙突付きの家、更には『Happy Xmas』と書かれたチョコレートのプレートが飾られている如何にも今日らしい作りをしているものだ。
空いた右手と左手は周りにバレないようにひっそりと繋いだ。
本来なら今頃は侑士の家のコタツでイヴを過ごしている筈だ。
しかし侑士がケーキもチキンも用意していないというのでわざわざ買いに出て。
うまくデートに誘い込まれたのだと手を繋がれてから気が付いた。
「夕飯は俺が作ったるよ」
けれど不快になんて事には勿論ならなく、
そうにいつもよりも優しく微笑まれた気がして自然と頬がにやけてくる。
食材は用意していたようで一人暮らしで腕を上げたらしい手料理を御馳走してくれるのだそうだ。
大したもんは作れへんけど。と付けたされた言葉に俺は静かに首を振る。
「侑士の作ったもんなら俺にとっては大した御馳走だぜ」
顔を見上げながら言ったその言葉に侑士はしばらく驚いた表情をしたあと、だらしないような、それでいて幾分か格好良いような顔で。はんなりと笑った。
俺らしくない言葉だったのだろうか。でも俺にしか向けないような笑顔だったから喜ばれたのは確かで、俺も侑士にしか向けないような顔でこの時きっと笑った。
家に付いたらまずはコタツで暖まってそれから侑士の手伝いをしよう。甘い炭酸ジュースを飲みながら御馳走を食べてチキンを頬張ってそれから甘いケーキを食べて、そして甘いキスをしよう。
きっと俺は侑士の分のケーキも食べながら幸せそうな顔をしているに違いなく、今年最後の極上のキスを実感するのに違いない。
そう思うと頬は一気に熱くなり侑士の顔が見れなくなった。
そして早く帰りたい気持ちが沸き上がる。侑士からは顔が見えないよう繋いだ手を引っ張り前に出て足早に侑士の家へと向かった。
さほど遠くない侑士の家にはすぐに付くだろう。
「岳人?」
急に歩く速度を変えた俺に侑士が俺の名前を呼ぶ。
俺はそれに振り向く事はおろか返事もしない。
クリスマスというのは恐ろしいものだ。
思考がクリスマスという雰囲気や空気に毒されて普段なら絶対に言わないような台詞を口から吐き出させる。
「キスしたいから早く帰ろう」
そう口から勝手に滑り落ちた言葉に侑士は一瞬固まったあと。俺を勢いよく抱き抱えて人目も気にせず一目散に家へと走った。
空に浮かぶ満天の星がめちゃくちゃ綺麗な夜だった。
終
2008/12/24
テーマ:ケーキがぐちゃぐちゃ