蜂蜜色の瞳が揺れる。

彼の瞳は不思議だ。
一度絡ませたら最後、その熱の篭った視線に捕われて離れられなくなってしまう。
優しいはずのその色に、強く強く惹き付けられて、逃げることを忘れてしまう。


そうやってわたしの心を捕まえて離してくれないくせに、
わたしの気持ちなんてとっくに見透かしているくせに、

時たま彼は、本当に意地悪なことを言う。




「ねぇなまえさん、 好き、って、言ってください」


左側には壁、右側には彼。
じりじりと追い詰められて縮こまると、また更に距離を縮められる。
もちろん、両脇に突いた腕の所為で逃げ道はない。
じいい、と穴が開いてしまうのではないかというくらいに見詰められていよいよ思考は崩壊寸前。どうしろというんですか那月様。


「な、那月くん、ちょっと、落ち着こう」

「僕は落ち着いてますよぉ、」

「うんと、じゃあとりあえず座って話さない?おいしい紅茶淹れるから、」

「! …紅茶になんてつられませんから…」

「…す、少しはお姉さんの言うこと聞いてください!」

「またそうやってすぐ子供扱いして酷いです!歳なんてちょっとしか違わないじゃないですかぁ!」


その大きな体で、わたしなんてすっぽり隠れてしまうというのに、彼の可愛らしい話し方と雰囲気についつい年上ぶってしまう事が多い。
その度にこうして怒られて、でもなかなか改善できなくて結局振り出しに戻ることになる。



「なまえさん、僕達 恋人同士 でしょう?」


でもこんな風に時々大人のふりをして、主導権を奪っていこうとするから本当に質が悪い。

ぐ、とまた詰められた隙間に心臓が騒ぐ。
綺麗な指に髪に絡めては解いて、わたしの答えを待つ目の前の人は、 とうていいつもの彼とは大違いだ。

どこでそんな仕草覚えたのかって少しだけむっとしてしまうくらい、大人のわたしも追いつけないような雰囲気を身に纏って。
そんな顔をして低く名前を呼ばれたら最後、降伏してしまう他に助かる術はない。
がぶりと食べられてしまう前に、彼の望む言葉を差し出さなければ。



「 す、すき ん、むっ」
 
 
ああもう!またそれだ!
いつもいつもわたしからその言葉を欲しがるくせに、いざ言おうとすると吸い込んだ空気ごと奪っていく。

満足そうに細められた瞳にわたしの出来る精一杯の抵抗。
閉じた瞼の裏の暗闇に、彼の蜂蜜色だけが鮮やかに残った。

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