雨ニモ負ケズ、超能力者ニモ負ケズ



「来てくれて嬉しいわ翔斗くん。私は綾咲。この超常研究所(パラノーマル・ラボ)の所長よ。歓迎するわ」

 にこやかに挨拶され握手を求められたが、失礼ながらもその手を受け取る気はさらさらなかった。
 俺はここに入る気はないし、むしろ潰す気だ。歓迎されても困る。

「……おい、失礼だぞ翔斗くん」
「いいわ、接触感応能力者(サイコメトラー)って知ってるのに触られるのは嫌よね。視られちゃうもの」

 苦笑いを浮かべ、引っ込めようとする綾咲さんの手を掴んで止めた。

「あら?」
「翔斗くん……?」
「――違います。視られるのが嫌とかじゃありません。接触感応(サイコメトリー)を持っていようが持っていまいが関係ない。俺はここに長居するつもりはありません。どうして俺をここにつれて来たかったのか、早急に説明をお願いします。……親が待ってるんで」

 掴んでいた手を放して、綾咲さんを真っ直ぐ見つめた。綾咲さんはその視線を受け、ふと瞳を和らげる。

「そうね。何も知らないまま仲間になれなんておかしいわよね。説明するわ。私たち、超能力テロ組織なの」
「……超能力、テロ組織……?」

 その言葉をなんとか飲み込んで、綾咲さんの隣に立っている大野さんに視線を向けた。
 お前……。

『一応言っておくけど、俺は変態でも犯罪者でもないからな』

 いやいや、ガチ犯罪者じゃねぇか!!





 綾咲さん曰く、全員座れるからということで俺たちは食堂へ移動した。
 大野さんは綾咲さんの隣に、俺は彼女の向かいに座り、話が始まるのを待つ。
 伶は少し離れた場所にダルそうに座っていた。

「超常研究所は怪しまれないための表向きの名前。テロ組織って言ってもメンバーはここにいる三人だけだし、実際はまだ何もしてないからそんなに身構えなくても大丈夫よ」

 ――超常研究所。十分怪しい名前だと思うし、メンバーが思ってたよりも少ねぇ。三人って。部活だったら認められなくて同好会扱いだぞ。
 綾咲さんは事もなげに笑いながらそう言うが、それでも危険分子ということには変わりはない。一体何故、テロを起こそうと思ったのか。そこに俺を入れる理由は。

「あの、どうして俺を……」
「そんなの簡単よ。世界でも数人しかいない多重能力者(エクストラ・サイキッカー)がいるテロ組織なんて、そんなの……、そんなのかっこいいじゃないの!」

 あ、この人バカだ。
 若干引き気味に恍惚な表情を浮かべている綾咲さんを見ていると、大野さんがコホンッと咳払いをして場の空気を戻した。

「ボスの接触感応は対象の三日以内の記憶が読み取れて、俺の瞬間移動はただ移動するだけ。伶の精神感応はさっきみたいに対象の脳内に話しかけるくらいで、どれもテロ向きの超能力じゃないんだ。パッとしないだろ?」

 テロ向きの超能力って何。そんなのあんの。怖っ。
 パッとしないって、こいつら超能力に派手さでも求めてんのか。頭大丈夫か。

「翔斗くん、あなたがいるだけで注目されること間違いなしだわ。さあ、私たちと一緒に世界を作り変えましょう!」
「お断りします」

 肩をグッと掴まれ、目を爛々にそう言われても、入らないものは入らない。俺がいなくてもテロ組織ってだけで十分注目されますよ。

「え、なんでよ。入りなさいよ。人気者になれるわよ」
「誰からの人気だよ。いらねーよそんな人気。ハァ……、大体、なんでテロなんかするんですか。やめましょうよそんなこと」

 一日に二度も超能力犯罪者に会いたくねーよ。
 肩に置かれた手を振り払い、呆れ眼で綾咲さんを見つめる。

「注目されたいだけなら、犯罪じゃなくてもっと法に触れない違うことを……」
「馬鹿ね翔斗くん。注目されたいだけでテロなんか起こすわけないでしょう」
「え……」

 綾咲さんの冷たい視線が真っ直ぐ俺を射抜いた。

「消したいのよ、この世界から。何の能力も持たない無能な連中を」