■ モブ、なんですケド。

 一般的に私は地味に分類される。
 どのくらいの地味さか。漫画で例えるなら良くて主人公と同じクラスの女子Aくらい。じゃなかったら通行人Aかな。
 いや、Aでもない。Eくらいの地味さ。
 眼鏡かけててチビ、おまけにコミュ障。
 そんな私はとにかく目立たなかった。
 いや。目立たない、はずだった――。

「あー……、相崎。もしまだ誰とも組んでないなら、あの、ほんとに良かったらなんだけどさ、――おれと組まない?」
「…………。……ファッ!!?」

 二人一組を作れという残酷な指示を出してきた先生を恨むこと数秒。
 クラスの中心にいつもいて、女子にさぞかしモテるんでしょうねー、な爽やかイケメンこと東間くんが声をかけてきた。
 誰に? ――私に!
 え、ちょ、待てよ。本当に私か、と自身の背後を勢いよく振り返る。
 ……うん。私の後ろには誰もいなかった。
 いや正確にはいるのだけど、その子はペアの相手と談笑していた。
 すなわち、東間サマが声をかけた相手ではない。
 てか待てよ……?

「相崎? あ、もしかしてもう組む相手決めてたりとか?」

 普通にワイの名前言っとるやんけッ!!
 って、え、ちょ……。
 その照れ顔とシュンとした顔やめろ! 可愛いだろうわぁああああああ!!!!

「え、あ、あの、もしかして私に言ってます?」
「え? うん。あれ、おれ相崎って言ったよね?」

 小首を、傾げるなぁああああうわぁああああああ!!!

「――で、組んでくれますか?」

 出来るなら決めてた相手じゃなくておれを選んでほしい、んですケド。
 そう言って、視線を逸らしながら淡く染まった頬を掻く東間くん。
 君はアレですか、天使か何かですか。ありがとうございます。おいしくいただきます。ぷまい。
 にやける頬をグッと堪えながら、お願いします、と口を開きかけたところで気づいた。気づいてしまった……。
 これは間違いなく――!

「ば、罰ゲーム……ですか?」
「……? ……は!? え、なんで!?」

 そうだよ、罰ゲームだよ!
 じゃなきゃ、クラスのきらきらリア充グループにいる東間くんに誘ってもらえるわけないじゃんか!!
 ばか、私! うんこ!
 はー、しかしぬか喜びする前に気付けて良かったー。
 東間くんも酷いことをしなさる。私だったから良かったものを。
 からかわれ慣れてない子だったら本気にしちゃって可哀想だよ!

「ああ、罰ゲーム大変ですね。私をからかうのが罰ゲームだったんですか?」

 心中お察しします。お疲れ様です、うっす。と言うと、東間くんは怪訝な顔をして疑問符を頭の上に幾つも浮かばせていた。
 そして数秒後、合点がいったのか、目に見えてオロオロとし始めた。

「ち、違うよ!? どうして罰ゲームなんて結論に至ったんだよ!?」
「え、違うの? じゃあなんで私?」

 周りを見れば、東間くんに声をかけようとタイミングを窺っている女子が何人もいた。
 それに東間くんは気づかない。
 周りにいる可愛い花々に気付かず、目の前にいる雑草に話しかけるイケメン。
 非情に残念だよ、東間くん。
 YOU、勿体ないよ!

「なんでって……、そんなの相崎と組みたいからに……決まってるじゃんか……」
「マジすか」

 東間くん、君は一体何のフラグを建てるつもりだい?
 カァーッと音が聞こえてきそうなくらい、顔を赤く染めた東間くんが恥ずかしそうに手の甲で口元を隠した。
 うん、可愛いよ。可愛いけどね?

「課題、私より頭良い子と組んだ方が断然良いと思う。けど……」

 私と組みたいという言葉に、果たして私と組んだ際のメリットがあるのかと疑問を浮かべる。
 ――ないな。デメリットしかないよ。私、不器用ですから。
 あとイケメンと組むなんて、同じ空気を吸うのが申し訳なさ過ぎて窒息死する。
 うっ、苦しい!

「相崎……。――だからおれは!」

 そんなことを考えていたら東間くんが、私の肩を掴み、思いきり息を吸って――。

「相崎がいいんだって!! 好き! ……だか……ら……」

 叫んだ。と思ったら、だんだん声が小さくなっていった。

「へっ?」

 驚きで体が固まる。
 そのまま東間くんを見つめていると、彼は真っ赤になった顔のまま「う゛〜……好きだから、相崎じゃなきゃダメだから。おれの勇気を罰ゲームにしないで」と眉を下げて寂しそうに笑った。
 何故か涙が浮かんでくる。頬が熱い。息が、出来ない。

「好きです相崎。おれとペアを組んでください」
「――はい」

 同じく真っ赤になった私は一体どうすればいいのでしょうか。

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