ポリゴン | ナノ



  
性差別者からの贈り物



「ちょっと!どこ向かってんですかっ」
「あー?うっせーよ。暴れんな」
「おーろーせー!!」
「水無ちゃん、諦めな?こうなったゆーちゃんは超頑固だよー」
「人さらいー!!」
「ピーピーわめくな。だから女って面倒なんだよ」
「性差別者ー!!」

まるで米俵でも担ぐように『持たれて』いるわたしは必死に手足をバタつかせ、時にはこの失礼な男に攻撃を加えてみるものの、「ってーな!殺すぞ!」暴言を吐かれ更にガッチリと腰を抑えつけるのだから、甲斐がない。井原先輩が隣に並んで口笛を吹いているので、アンタも何か言って下さいよとも思いつつ、まあ、何だかんだで先輩がいるのだからヒドい事態にはならないだろうと妙な安心はある。あるのだけれど、この男に大人しく担がれているのは何だか、女がすたる。というので、移動中はずっと暴言と呪いの言葉を内心唱え、たまに口に出したりもしていた、わけなのだけれど。移動している間そんなことばかりしていたので、どこに向かっているのかいまいちわからないままだった。けれどこうして足を止めてみると、今自分がどこにいるのかというのはハッキリとわかった。「エイ」「オウ」だの掛け声と、バウンズ音、シューズの鳴る音。体育館だ。と、立ち止まっていた男が再び歩き出す。頭部がヤツの背中側に向けられているので、どんなカオをして何を考えているのかはわからないけれど、とにかくわたしは担がれたまま、体育館に入った。

「う──っす」

やる気のなさそうで、かつ横柄な性格がよく表されたようなトーンで担ぐ男がそう言うと、誰かが「田原!?」と驚いたような声を出した。そうか、田原っていうのかこの男。わたしも田原と呼ぶことにしよう。隣に立って、今度はチュッパチャップス(メロンソーダ味)を舐め始めた井原先輩が「すげー今オレ水無ちゃんが何考えてんのかよくわかる!」と笑う。笑われても。そんなことを思いながら、田原!?と言った声の主と田原が交わす会話に耳を傾けた。

「お前帰って来たのかー。土産は?つかオマエ何担いでんの!?」
「土産なんかねーよボケ。コリャ荷物だ。……ん、まあお前でもいいか。順平。そんなに土産欲しいならやるよ。ホレ」

渡された。
急に視界が反転して、腰の拘束が解けたかと思うと、目の前には眼鏡の男の人がいた。え、誰この人。ああ、『順平』さんか。……いやいやそういうことじゃない。『ホレ』と言って手渡されたらしいわたしを、背中に腕を回し、腿を持ち、これは担がれているというよりはむしろ、向かい合う姿勢で抱っこされているというのが正しいだろう。ようやく進行方向を見ることが出来たので妙な達成感が芽生えつつ、何か違うような気がしないでもない。わたしとばっちり目が合って、というか見つめ合うような至近距離に気付いて「うお!?」と順平さんが手を離そうとする。当然のようにずり落ちそうになったわたしに気付いて「あ、わり……」と抱え直してくれた。よく気付く人だな、と思った。でも、欲をいえばあと一つ、気付いてほしいのだ。わたしがもうずっと降りたがっていることに。順平さんは向き合っている田原をキッと睨んだ。

「ボケじゃねーよ!つか土産って!女子じゃねーか!一人ぐらいくれてやるってか!?」
「そーゆーコトじゃねえよ。そうか不満か。しゃーねーな……。オラ粗悪品。こっちこい」
「そ、粗悪……!?」
「ミヤゲにすらなれねーテメーだオカッパ」

何だその、『ったく無能だなテメーはよ』的な見下した目は。順平さんにあの、と声をかけると、気付いてくれて、おろしてくれた。やっと地面に足が着いた……。と感動している暇もなく、田原に首根っこを掴まれ、バカ力で体育館の奥の方へと入っていく。練習しているのはバスケ部のようで、ハーフコートではシュート練習をしていたらしい黒子くんと火神くんのポカンとした表情がこちらを見つめている。黒子くんの表情はあまり変わらないから読み取りにくいけれど。にしても田原はどこまでわたしを引きずるつもりだ、と背中を睨み上げる。途端に、顔を田原の背中にぶつけた。「ぁにすんだテメー」と睨まれる。知るか。お前が急に止まるからだろう。ムダに広い背中から顔を出すと、今度は女の人がいた。前髪をヘアピンでとめたショートカットの、可愛いかんじの女子生徒。田原が用があるのはこの人らしく、こいつの知り合いということはやはり先輩なのだろう。田原は「相田」と声をかける。

「よお」
「ん?あ、田原クン。帰ってたんだー。何でココに──って何持ってんの!?」
「相変わらずオマエら仲いーのな。おんなじトコ突っ込んでるよ」
「いや、突っ込みドコロはそれしかないと思うよ!?」
「あの……帰っていいですか」
「あ?勝手にしゃべんなウゼェ」
「はあ?」
「オラ、相田。コレやるよ」

ドン、と背中を押された。
きょとん、とした表情の『相田さん』。
わたしも、きょとんとする。
『コレやるよ』。
コレ、やるよ。
コレ。

「へ、え!?コレって!この子!?」
「去年のオマエの誕プレ、用意出来なくてピーピー言ってたろ。コレやるから好きに使え」
「今更!?てかプレゼントこれ!?」
「相田ちゃんも結構キツいよねー」
「あ、ゴメン。てか井原クンいたの?」

…………。
………………。

「マネでも雑用でも何でも、使えねーコトねーだろ。オラ。何なら歌ってやろうか。ハッピーバースデー、トゥユー」

「ふざけんな、こら」

しん、と一瞬で静まった。
順平さんも相田さんも井原先輩も他のバスケ部の人達も。そのまま全員沈黙していてほしい。

「わたしはバスケをするために入ったんです。マネージャーするつもりはありません。それになんで1コ上ってだけで、あなたみたいな失礼極まりない男に追い出されなきゃいけないんですか。わたしはストバス同好会に、正規の手続きで入りました。ムリヤリ追い出されなくちゃいけないこと、してません」
「…………」
「それに女だからダメって、どんな性差別だ。女なめてんじゃねーよ。人形が怖いとか、ガキかてめーはよう」
「…………あ?ざけんなよテメエ」
「そんなにわたしが嫌なら、バスケで勝負しましょうよ」

先輩が「み、水無ちゃん。落ち着こ?」と肩を叩いてくるけれど、このイライラはどうも納まりそうもない。眉間にシワを寄せて、これでもかってくらいに見下ろしてくる田原を見上げて、もう一度言う。

「バスケで勝負、しましょうよ」




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