…………。 ……………………。 「前より二人の連携の息が合ってるっスね」 「あのDFをぶちやぶる気かよ」 「けど……一つ気になるな」 「ああ。第2Qでかく汗の量じゃねーぞあれは……」 …………。 ……………………。 「うっわ!またファウル!」 「バッカ……!何やってんスかもー」 「まだ第2Qだっつうのに」 「こりゃひっこめるしかねーな。残り一つしかビビッてまともにプレイはできねー」 …………。 ……………………。 「おお〜っ。思ったより全然くらいついてるっスね」 「……てかむしろ今の方がしっくりきてるけどな。黒子と火神は攻撃力がズバ抜けてるから即採用したんだろうが……あの二人を加えたチーム編成は春から作った型、いわばまだ発展途上だ」 「ん。順ちゃんののアウトサイドシュートと凛ちゃんのフックシュート、それを軸にしてチームOFで点を取る今の型が、誠凛が一年かけて作ったもう一つの型だよ。ちなみに、こっちの型のキーマンは、ユキちゃんがこの前マッチアップした俊ちゃん」 「順平は精神的支柱だ。ゲームメイクはPGに任せてる。アイツには眼がもう一つあんだよ」 …………。 ……………………。 「古武術ってのはその名の通り古の技。現代のスポーツ科学とは考え方が全く違う。それをバスケに応用した特殊な動きが正邦の強さだ……が」 「特殊ってことは、クセがあるってことだ。徹底的にそれを洗い出して、そのクセから次の動作を予測する」 「三人が手伝ったって、それスか」 「あれは大変だったねー」 …………。 ……………………。 「オールコートマンツーマン!?」 「守るどころか、もう1ゴール獲る気だ……!」 「あのDF、ほんとに密度は保ったままだから凄いよねー」 「気ィ緩めたらやられんぞ」 …………。 ……………………。 「あ!」 「津川!?」 「なんで……」 「パスコースから逆算して察知したんだ……!!」 …………。 ……………………。 「となりの秀徳も終わったみたいスね」 「これで決勝は秀徳対誠凛か」 「つか一日二試合ってムチャしすぎだろ。どんだけハードだよ」 「ま。泣いても笑っても3時間後だに」 …………。 ……………………。 「…………」 「…………」 「…………あの、環っち?」 「……ん。何かな」 「何かな。じゃないっスよ!何なんスか!?ずーっとオレのこと睨んで!!」 「黄瀬、お前なんか手でも出したんじゃねーの?」 「ええっ!涼ってばフケツ!」 「えぇ!?だ、出してないっスよ!」 「こんなリスのどこにそんな魅力があるんだ……?」 「酷いっス田原っち!環っちには、環っちには、言葉で言い表すことの出来ない魅力がたくさん……!」 インターバル中の黄瀬言動の真意を考えても考えてもよくわからなかったため、とりあえず試合中も試合後もずっと黄瀬くんを睨んでみたのだけれど、やっぱりよくわからなかった。そしてそれが原因だと分かっているだろうに話の続きをしないということは、それ以上は言うつもりがないのだということに気付き、やっぱり睨む。試合は73対71と誠凛の逆転勝ちで幕を閉じ、誠凛バスケ部は今頃控え室で、17時から始まる決勝戦に向けての休息とスタンバイに明け暮れている頃だろう。ギャーギャーと騒ぐ先輩と田原と黄瀬くんを隣に、笠松さんは「俺らどーすっか」と辺りを見回す。3時間も空きがあるというので、周りは持参の食料を広げたり外に出たりと疎らになっている。 「笠松さんはお昼は?」 「あー。まだだ」 「じゃ、遅めの昼食にでも行きますか。わたし達もまだですし」 「どこにする?この辺よくわかんねーんだよな」 「まあ、マジバとかコッコイチとか、あとファミレスなら5分ほど歩けば」 「じゃ、ファミレスでいいか?」 「はい。なら出ましょうか」 「おう」 「おい、出るぞ」昼食へ向かうことに決めたため、笠松さんが三人に向かいそう告げると黄瀬くんが不機嫌そうに返事をした。先輩達にからかわれたせいだろうか、とも思ったけれど「水無ちゃんとユキちゃん、二人の世界入ってたにゃー」という先輩の発言でその理由がなんとなくわかった気がする。 「別に入ってないです」 「お前らが会話に加わると、話が進まねーからな。一番マトモそうなのに」 「はあ?マトモって、このチビがか」 「おや。奇遇ですね笠松さん、わたしも同じことを考えていました」 「もう!環っち!二人とも離れて!っスよ!」 「意味わかんねーよ」 「同じく」 「だぁから、ジェラシーだって」 「はあ?」 「餅のことですって」 「ちがっ──イテ!!」 「餅ィ?アホか、ファミレスにあるワケねーだろ!シバくぞ!!」 「全然違うしもうシバいてます……!」 とにもかくにも。 「ぷはー!食った食った!」 「ごっちゃんでーす!涼!」 「え!?オレ!?」 「モデルだろうが、イケメン君」 「おお。そっちじゃそーいう使い方もアリなのか」 「可哀相に。いいカモだよね」 「あれ!?同情してくれてるハズの環っちが一番ヒドイこと言ってるような気がする……!!」 なんだかんだ。 「おお、ギリ間に合った!」 「りょおー。お前が女になんぞ捕まるからだろが!」 「仕方ねースよ、オレモデルなんスから」 「っくー!オレも早く、早くオーディション受かりたい!」 「あ。あそこ二席空いてますね」 「コイツらほって座っとくか」 そんなこんなで、 決勝戦。 開始のジャンプボール。 誠凛にボールをとられるも瞬時にDFを組みスキを作らない秀徳は、なるほど確かに強豪なのだろう。チームのバスケがよく分からないのは確かだけれど、わたしがもしこの人達を相手にするならばと考えると、少しウズウズするような気がしなくもない。基礎スペックからして誠凛よりも上な相手に沈黙していたところで勝てっこない。──伊月先輩に一度ボールが渡り、マークから逃れた黒子くんへ回る。そのままボールを放り、火神くんが空中でキャッチしてアウリープへ持ち込もうとする。 「──が、入らない」 緑間真太郎がそれをはたき落とす。こぼれたボールは10番が拾い、今度は秀徳ボールで5番にパスが行きリングへ飛ぶも、日向先輩がブロックした。 「……動かねーっスね」 「均衡状態入っちゃったかなー?」 「両チーム無得点のまま、もうすぐ2分だ」 「このままいくと……第1Qは、アレですか」 「ああ。先制点を取った方が獲る」 秀徳がリバウンドからの速攻をかける。4番から10番、そして6番とボールが回され、3Pが打たれた。──やっぱり、高い。綺麗なループを描き、数瞬の沈黙をぶち破るようにネットをくぐる音がして、ゼロゼロの均衡は崩されることとなった。湧く観客。流れは一気に秀徳へと傾いた──と思われた。リバウンドした黒子くんが回転の力を利用して、すでに反対側のリング下にまで走っていた火神くんへ直球パスを送り、ダンクを返すまでは。 「緑間っちが、封じられてる?」 「ああ。あの透明少年の回転式超長距離パスでな」 黒子くんは多分、コートでの流れ、空気、渦巻く感情や気配なんかに人一倍敏感なのだと思う。詳しいことはよく知らないけれど、中学での経験に加え、当時のメンバーと決裂したという過去から、多分そういうことに過敏になってしまった。今までの試合でも、黒子くんは何度も頭に血が上った火神くんのガス抜き役になっている。ムードメイカーというのは、ああいう人のことを言うのかもしれない、と感じた。傾きそうになった流れを一早く察知し、対処する。あのパスは、あの3Pが初めてあのコートで放たれた直後というあのタイミングで見せつけることで威力を発揮するものなのだ。笠松さんの解説を聞きながら、そんなことを思った。 「……にしてもだよ、あのスリーはやっぱスゲーよねー。目茶苦茶綺麗っつーかさ、あのシュートが外れるなんてありえない!って思うよーな」 「アイツ、中学ん時からああなのか?」 「はい。緑間っちはフォーム崩されない限りは外れないし、オレもあの3P外れんのは見たことないっスよ」 「……プレイに関してなら、わたしはどちらかというと10番の方が気になりますね」 「およ?10番てーと」 「あの一年か。確か、高尾」 「王者で一年レギュラーっていうのもそうですけど、PGってのが特に」 「ああ──」 わたしの言葉に、笠松さんは納得したような声を上げて「確かに多いよな」と続けた。うん、確かに多い。PGというのは、コート上の司令塔、第二の監督と称されるものであるらしい。誠凛の伊月先輩しかり二つ隣の笠松さんしかり、昼に誠凛が戦った正邦の5番しかり、瞬時の判断力やテク、それに他のメンバーとのコンビネーション力が必要とされ、どんな策でもこのポジションは要となることが多い。他のメンバーを最大限に生かすプレイサーチが求められる。その役を、まだ入部して二ヶ月しか経っていない一年に任せているのは、非常に──特殊だ。 「それにしたって伊月先輩のマークよく外しますし。だから多分、まだあるんでしょうね。何か」 「んー?環っちの言ってることはよく分かんないっス」 「ダアホ!わかる努力をしろ!!」 「イテッ!!」 「黄瀬くんは可哀相な子だよね」 「何が!?どういう意味で!?」 あ、マーク変わった。 ← → |