ポリゴン | ナノ



  
男女平等籠球社会



「ハラへったなー。何か食わねえ?」
「マジバでも行くー?」
「黄瀬くんモデルなんだから、もっと贅沢にいこうよ」
「?モデルと関係あるスか?」
「?稼いでるでしょ?」
「えー!?オレの奢りで食べるんスか!?」
「?だめ?」
「可愛く首傾げてもダメっスよ!」
「ちぇ」
「う、うう……!奢ってあげたいのは山々なんスけど、オレ、今月服買っちゃったから……!」
「あ、あそこマジバ」
「入りましょっか」
「ムシ!?結構悩んだんだけど!!」
「奢れないモデルに用はないよ」
「悪女がいるっスー!!」

とまあ、そんなやりとりをしながらマジバに入る。試合の後だし黄瀬くんも疲れているのでゆっくり食べられるイートインにしようかと先輩が言ったけれど、黄瀬くんは首を振った。近くにコートがあるのでそこで食べてからバスケをしよう。「今、何かバスケしたい気分なんスよね」と黄瀬くんは笑った。特に反対する理由もなく、わたし達は従う。それぞれに注文をしてそれぞれが支払ったけれど、終始店員さんが女性だったので黄瀬くんに黄色い声をあげていて、黄瀬くんはそれにウインクで返したという一連のやりとりがとてもうっとおしかった。それ以外は何事もなく、わたしは袋を持ってくれている先輩の隣に並び、案内役の黄瀬くんの後ろをついて、歩いていた。黄瀬くんは初めての敗北の後もそりゃあ直後は衝撃を受けていたけれど、今ではもう普段通りのやかましさを見せていて、それでも横顔が不意に遠くを見つめるので、わたしはいまいち黄瀬くんへの接し方がわからないのである。先輩は「そだね、いつもより更にクールになってんね。クールってかむしろアイスだね」のほほんとそう言っていた。

「ここらのコートはね、人気なんスよねーっ。だから早めにとっとかないと」
「じゃあ走って場所取っといてよ。わたしと先輩はその間に電車乗って帰っとくから」
「えええ!?水無ちゃんそれは……」
「ヒドイっス──!!!」
「なんか黄瀬くんを見てると、こう……イライラと」
「イライラ!?」
「むかむか?」
「同じっスよ!!」
「ああもううるさいなぁ」

「うわーん!」と泣きマネの黄瀬くん。相変わらずマネが上手いことだ。涙がドバドバ出ている。「水無ちゃん、それマネじゃないから」自分より15センチほど高い黄瀬くんをあやす先輩の姿はとても滑稽であった。と、泣いているために前を見て歩かない黄瀬くんの代わりに先頭を切っていると、不意に通りすぎようとしていた店の自動ドアが開く。と同時に、肉のニオイ。何屋だここ、と横目で見ると、…………あら。

「うぅー……。なんでそんなイジメるんスかっ」
「黒子くん」
「水無さん?」
「え、黒子っち?」
「黄瀬君……」
「…………黒子っち」
「黒子くんどうしたの?お腹痛いの?」
「あ、これはステーキが」
「……ちょうどよかった。ちょっと……話さねぇスか」

なるほどステーキ屋さんだったのか。黒子くんって見るからに小食そうだけれど、この店名からしてバカデカい肉が出てくるだろうところで食事を済ませるとは、人は見かけに寄らないのかもしれない。あれ、でもいっつもパン1こ2こしか食べてなかったような気がする。それと同じだけそうじゃなかったような気もするので、まあ多分気のせいというやつなのだろう。黄瀬くんは身体大きいけどそんなに食べなさそうだな。先輩は見かけの割によく食べるけれど。と、そんなことを考えていると肩を叩かれる。

「水無ちゃん」
「……はい?」
「どしたの?ぼーっとしてると、涼と黒子ちゃん行っちゃうよ」
「どこにですか?」
「……ちょっと待って、どっからトリップしてた?」

どっからって、
何が。


「何話してんだろーねぇ」
「さあ。知りません」
「クールだねぇ。オレは興味あるけどなー、正直。出来れば『キセキの世代』全員とバスケしてみたい」
「……無茶言いますね」

言いながら、ボールをつく。先輩がシュート警戒で高い位置で構えているのを確認して、右手で掴み、左足の後ろにボールを持っていく。先輩の目がそちらに向いたところでバウンズしてレッグスルーのあと、一瞬の隙をついて抜いた。「あっ!」と声をあげる先輩に構わずシュートを打った。

「黒子くん合わせて6人ですっけ。黄瀬くんとはやったから、あと5人ですか。手近なとこで、黒子くんとバスケしたらどうですか?」
「これで2-8か……。いや、うーん。でも黒子ちゃんは一人じゃムリなんしょ?やっぱ火神ちゃんとペアでやるかなー」
「やればいいじゃないですか」
「じゃ、水無ちゃん組んでくれる?」
「やです」
「ハッキリ言うねぇ」
「田原とでも組めばいいでしょうよ」
「んー。あとで聞いてみよー」

プレイを止めて、フェンスの外で話している二人を見遣る。黄瀬くんがバスケ関連以外の話ではめったにないほど真面目なカオをしているので、やっぱりバスケの話をしているようだ。と、その二人から少し離れたところに火神くんの姿もあることに気付く。団体行動中だったらしく、火神くんはキョロキョロとしていて黒子くんを見つけると近付いて行くので、どうやら黒子くんを探しに来たようだ。そして、ふと、立ち止まる。話が聞こえているのだろう、その内容に興味でも湧いたのか、二人を角から覗き見るようにしていた。

「……不審者」
「えー?何がー?」
「いえ何でも」
「そ?あのさ他の『キセキの世代』について、黒子ちゃんに聞きに行こーよ。教えてくれるかな?」
「黄瀬くんと喋ってるじゃないですか。あとにしましょうよ」
「思い立ったがなんとやら」
「……名前なら、前に黒子くんが出してましたけど。全員色がつくんです」
「え、どんなのどんなの?」
「えっと……緑なんとかと、紫なんとかと、赤なんとかと、黄なんとかと」
「さすがに黄色はわかるでしょ!?」
「……あと、青なんとか」
「つまり色しか覚えてないワケね……」
「あ。火神くんがシバいた」
「火神ちゃん?あ、ホントだー。オレらも行こーよ」

火神くんが現れて話の腰も折れた様子だったので、頷いて、荷物を拾いコートを出ようとする。すでに制服を着た男子が三人待機していたので謝って、外に出る。のと入れ代わりに、五人、新たに入ってきた。制服を着崩した、もはや私服と化している、いかにも悪いことを企んでいるようなカオをした男子学生だった。先輩と見合わせてから、コートを振り返ると、その五人は思いっきり三人に絡んでいる。うわあ、と先輩はイヤなものを見るようなカオをした。「まあまあ……ココはホラ、バスケで決めるとかどう?」と流れで3on3をすることになったらしい。非があるのは後から来た方なので、別にバスケで決めることに利点はないのだけれど、そうなってしまったらしい。「雰囲気って怖いね」と呟くと隣には首を傾げられた。

「んー。どーしよかコレ」
「単なるバスケ勝負で終わればいいんですけどね」
「あ、でもあの三人結構決めてるよ」
「ていうか、向こうが全然やる気ないんでしょう」
「あ、妨害!」
「しかも蹴りましたね」
「あれはダメですよね」
「だよねー」「そうだね」
「…………」
「…………」

あれ?


「…………」
「環っち?」
「…………」
「水無ちゃーん」
「…………」
「オイ、水無!」
「…………」
「水無さん。まだ怒ってるんですか?」
「……ふん」

黒子くんはコートに乱入して、続いた黄瀬くんと火神くんで組み勝負することになった。火神くんは5対3でいいと言ったけれどせっかくここに余分に二人いるわけなのだし、わたしと先輩も混ざろうとコートに入る。うわ、いつになくのり気だ水無ちゃん、と先輩が笑う。混ぜて混ぜてー、と加わろうとした先輩とわたしだったけれど、しかしわたしが混ざろうとすると黒子くんが「水無さんはダメです」と言ってきたのだ。続いて黄瀬くんが「環っちはダメっスよ!」と首を振る。しまいには火神くんが「オマエはすっこんでろよ」と言い放ち、わたしはエンドラインへと追いやられた次第である。先輩は「ありゃー。やっぱダメか」とヘラヘラ笑った。かくしてわたしは彼らが瞬殺している間、体育座りをしてずぅっと試合を睨んでいた。ギャラリーと化した三人に、まいう棒をもらった。たぶん、慰めのつもりだった。

「だって環っちじゃ危なかったスよ」
「それはわたしが弱いってことかな」
「相手は平気で蹴り飛ばしてくる連中だったんだぞ!」
「そんなの避けるし」
「ケガでもしたら大変です」
「大変なのはそっちでしょ?」
「水無ちゃーん……」
「女の子扱いしないで」

眉を下げる三人。場を取り繕おうと先輩が「ほら水無ちゃん、お菓子食べたら?まいう棒!」としきりに勧めるので一口食べてみた。辛子明太子ソース味だった。それなりにおいしかった。黙々と食べていると、一息ついたらしい黄瀬くんは地面に置いていたカバンを持ち上げる。

「じゃっ。オレはそろそろ行くっスわ。最後に黒子っちと一緒にプレーもできたしね!」
「え、涼。バスケは?」
「あー。これから仕事なんスよね。なんなら来る?」
「行く!」
「わたしは帰るから。先輩、マジバわたしの分下さい」
「うぅ……。またメールするから!返してね!あと火神っちにもリベンジ忘れてねっスよ!予選で負けんなよ!!」
「火神っち!?」
「黄瀬君は認めた人には『っち』をつけます。よかったですね」
「やだけど!!」
「ばいばい」

黄瀬くんと先輩は行ってしまった。向こうから、あっ!!いたー!と、相田先輩の声がした。「ってことは水無より下!?」とショックを受ける意味不明な火神くんをよそに、黒子くんは尋ねる。「あの話を聞いてましたか?」それに「決別するとかしないとかか?てゆーかそれ以前に、オレ別にオマエと気ィ合ってねーし」と火神くん。決別ってなんだ。

「一人じゃ無理だって言ったのはおめーだろ。だったらいらねー心配すんな」
「…………」
「……それに。いつも主役と共にある。──それが黒子のバスケだろ」
「…………。火神君もけっこう……言いますね」
「うるせーよっ」
「ロマンチストだね」
「だまれ!!!」

怒られた。




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