「加具山さあーん!」 「あれ?斑ちゃん!」
次にあかねちゃんの大型の向かった先は武蔵野第一高校。前にお邪魔したことのある、マシンがいっぱい置いてあるトレーニングルームへと向かう途中、水道のところで顔を洗っていた加具山さんを見かけたので声をかけた。「あれ?魔女だっ」わたしとあかねちゃんを指さして、それから、あっ、そっか、ハロウィンだ、と呟いた。その通りですよ、と言ってまずはあかねちゃんを紹介した。茶髪でパーマをあててお化粧をしているあかねちゃんにビビッていたようだけれど、二言三言会話したら、あかねちゃんの人あたりのよさが伝わって、よろしくねと笑い合った。
「いやあ、なんか身体動かしとかないと落ち着かなくてサ。外回りしてて、ゴールがココ。後輩のカオも見れるしね」 「へえ……実は、三年生は皆さん揃っていたりして?」 「斑チャンよくわかんね。アイツらも今中にいるよ。涼音もまだマネジ業やってっし、会ってったら?」 「うわー。じゃああかねちゃん、またまたお付き合い下さいっ」 「またまた頼まれちゃいます」
仲良いなー、と笑う加具山さんに連れられて、中に入っていくわたし達。「おーい!差し入れだぞー!」と扉を開けると、今年の大会のスタメンの方達と秋丸さん、そして一年生の人達がいた。何だかこんな格好で注目を浴びてしまい、少し恥ずかしくなってはみたものの。脱ぐわけにはいかないし。「さー入って入って」と加具山さんに肩を押されて入った直後、「斑!?」急に視界に入ってきた顔のアップは先輩だった。
「あ、わっ……」 「斑おま、何でココに、つか、そのカッコは……」 「え、えっと、えっと、は、ハッピー、ハロウィン!」 「意味わかんねえし!」 「へー!このでっかい人が榛名さん!?」 「あ?何お前」 「ああ?何その言い方」 「…………」 「…………」
あ、あれ?あかねちゃん……?3秒ほど無言で見つめ合った先輩とあかねちゃんは、お互いに舌打ちをしてそっぽを向き合った。あれー……?「斑ちゃんのお友達?」と、いつも綺麗な笑顔を見せてくれる涼音さんはあかねちゃんを見つめる。
「何でだか知らないですけど、先輩ってよくわたしの友達と仲悪いくなっちゃうんですよね……。これって人格の問題ですか?」 「……サア」
さてそれでは、と手を叩く。ポカンとした表情でわたしとあかねちゃん、突然の乱入者を見つめる一年生の人達にも三年生の方々にも説明するように、わたしは一歩前へ出た。
「あのっ、今日はハロウィンです!いつも練習を頑張ってらっしゃる皆さんにお菓子を配っています!あと榛名先輩のワガママにいつも耐えて頂いているお礼の気持ちです!」 「二つめの理由は何だコラ」
とにもかくにも。ぐにに、と両頬をつねられているわたしなんかに武蔵野の方達は目もくれず、一斉に。
「トリック・オア・トリート!」
とてもお腹が空いているらしい皆さんはこの場で食べて下さるというので、パイは人数分切り分けて、お一人ずつ配る。涼音さんに持って来てもらった紙コップには、ドリンクが入っている。床に腰を下ろしてワイワイとおしゃべりしながらがっつく武蔵野の人達はあかねちゃんと和やかなムードを醸している。
「わたしも交ざりたいなあ……」 「お前はダメ」 「ダメって何ですかっダメって!」 「やかましいわ」 「うー……」
先輩はすでにパイを食べ終わり、わたしの焼いたかぼちゃのクッキーをパクパク食べている。あんまり食べられると、あとに配る分がなくなってしまうのでストップさせると、ムッとされた。されてもなあ……。
「お前、こんなトコうろちょろしてんなよ。しかも、ンなカッコで」 「だって、今日、ハロウィンです」 「練習ももー終わるし。帰るぞ」 「え!あの、わたしとあかねちゃんはこれからいくちゃんの家に行って、ハロウィンパーティーするんですけどっ!」 「はー?それダメ」 「えーっ!?」 「え、何どしたの斑」
却下された、というか禁止されてしまった、お友達との初めてのハロウィン・パーティー。あかねちゃんがひょっこりと顔を出して優しい顔で尋ねるので話してみれば、あかねちゃんはキッと先輩を睨んだ。
「ちょっとおー。何勝手なこと言ってんの?何でアンタにンな権限があるっていうのよ」 「はあ?なにオマエなんも知らねーの?こいつはオレのだから、オレが全部決めれんだよ」 「はあー?頭弱いんですか?ちょっと頭弱い系なんですか?」 「んだとコラ!」 「あ、ほらー、すぐきれるー。血糖値が足りないのかもー。どうぞハルナさん、ロリポップです」 「誰がペロキャンなんか舐めっか!!」
…………。うーむ。あからさまに先輩を挑発しているあかねちゃんを見て、そういう接し方もあるのか、と思ったり。不謹慎だけれど。「あれ。ケンカ?」ペロキャンをくわえて顔を出した加具山さんに苦笑して、ゴーストを象ったチョコレートを渡した。ありがと、と加具山さんは隣に腰を下ろす。
「いやー、仲いーなーあの二人」 「…………」 「斑ちゃん?」 「…………」
何だろう、この気持ち。 ものすごく、胸が。
「あかねちゃん!帰ってきてーっ!淋しいよおーっ!」 「っ斑!待たせてゴメン!そーだよね、こんなデカブツとやり合ってる場合じゃなかったね!早く佐野山んち行こ!」 「あっちょ、オイ斑!待てよ!」 「武蔵野の皆さん、さよなら!」
慌ただしい別れから3分後。ブルルルルル、と息を吐いて出発する大型二輪。その少し後ろを、ママチャリ一台が必死に追い付こうとする光景が、しばらく見かけられたという。
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