振り連載 | ナノ



 2009年ハロウィン(1)



「……ふむ。ハロウィンですか」

切り揃えられた前髪、綺麗なウエーブは柔らかなミルクティーの色をしているあかねちゃん。わたしの髪の毛をいつも美味しそうな色だと褒めてくれている彼女がわたしのクラスまでやって来て王子様のようにわたしを浚ってたどり着いたのはあかねちゃんのネジロ、家庭科室。次に授業で使うクラスがないのでこうやってふたりで向かい合って座り、おしゃべりが出来るのは非常に喜ばしいことなのだけれどあかねちゃん、自分の手帳のカレンダーを広げて、特にココちゅうもーく!とわたしに見せてくれたのは10月31日土曜日だった。ハロウィンだ。ハロウィンという文字をとても目立つように色ペンで装飾しているあかねちゃんはわたしの言葉に大きく頷いた。

「そお!楽しみにしてたっつうのに、いま気付いたんだけど今年は土曜じゃん?」
「うん」
「どうしようって話じゃん?」
「なにがっ?」
「茜ちゃん特製☆ハロウィンに向けて一ヶ月間考えてたよスペシャルのパンプキンスイーツの品々」
「それはオオゴトだ」

あかねちゃん特製☆ハロウィンに向けて一ヶ月間考えてたよスペシャルのパンプキンスイーツの品々……。な、なんと魅惑的な響きなのだ。そしてあかねちゃんの微笑みの、なんと蠱惑的なことか。

「やー、ガッコで大量にバラまくつもりだったからもう仕込み始めちゃってんだよね。土曜日だけど、ねえ、これ、みんなに配りに行かない?」
「ええー。正直な話、わたしが一人で全部食べたいよ。あかねちゃんのお菓子っ」
「正直言って嬉しいけどね。でも20キロぐらいあるよ。カロリーとか破滅的だよ」
「ううっ……。してあかねちゃん、誰のお家に配るのかなっ?一件一件回ったら、それなりに時間かかっちゃうよねっ?家とーいもん」
「まずガッコの知り合い。要でしょ、ヒヨコでしょ、佐野山でしょ、聖に、錏に、戦に、苺に、えーと……ツグミンと巴と……んーと。そだ。野球部って練習あるん?」

ハロウィンだろうがクリスマスだろうがイースターだろうが西浦野球部は気にしない。というか、監督さんが気にしない。というわけで部活は例外なしにあるのである。つい最近コンビニでハロウィン仕様のリプトンをかなめちゃんが飲んでいたけれど今までわたしが忘れてしまっていたのは、そのせいだった。わたしはあかねちゃんの質問に、一切の迷いなく頷いた。「うんっ。今週の土曜日はねー、夕方まであるねっ」あかねちゃんは、ほーお、と顎に指で触れる。「じゃそれまではあたし、個人の知り合いに突撃して回るからさあ、練習終わってから付き合ってよ」ということで、わたしは朝からの部活が終わると、お菓子を持ってやってくるあかねちゃんと一緒に知り合いに配って回ることになったのである。あかねちゃんいわく、ゴールはいくちゃんの家なのだそうだ。ヒヨコちゃん達がハロウィンパーティーをしているらしい。「ふん。既製品だらけのパーチーなんか、あたしのスイーツ旋風で吹き飛ばしてくれる!」そこらのお菓子屋さんよりも、わたしはあかねちゃんの作ってくれるお菓子の方が、好きだ。

「うん、いいよっ!あ、そうだあかねちゃん」
「なに?」
「わたしもかぼちゃのお菓子、作ってみたいなあ。わたしもちゃん、あげたいっ」
「……お菓子作りの楽しさを分かってくれるのはアンタだけよ。他の連中はみーんな、『お菓子まだ?』だよ。もー茜サンやんなっちゃうよ」
「あかねちゃんっ、とも、交換したいなっ。ほらっ、『Trick or treat!』みたいなっ」
「……ちょい」
「んっ?」
「こっちにおいで」
「……うん?」
「ギュー!」
「きゃー?」

発端はお友達なのです

「えっとねー。パンプキンパイでしょ、ジャッククッキーでしょ、スカルとゴーストのチョコバーでしょ、かぼちゃプリンに、あとはー……」
「ロリポップ!」
「そんなもんか!うっし。じゃー早速作りましょー」
「しょおーっ!」