「えーっと。まずはじめのわたしの案が、泉くんお誕生日おめでとう!のケーキをみんなで作ってプレゼントしよう!というものでして、そよぎちゃんは『泉相手にそんなのつまんなーい!みんなでドッキリしたい!』というものでして、浜田くんが『プレゼントに、なんか笑いを取り入れようぜ!』というものでして、田島くんが『16歳だからチロル16こワリカンで!』というものでして、三橋くんが『お、れっ泉くん、に、これ……パン、あげ……』というものでして、ひじりちゃんが『泉ママに協力頼んで泉の16年間フォトアルバムを作りたい』というものでして、しころちゃんが『……今日一日、部活の時までいっそみんなして口をきかない』というものでして」 「でして?」 「散々議論した結果、それだったらいっそみんなの案をやっちゃいましょうと」 「しょうと?」 「いうわけで、みーんなやっちゃいましたっ!ほら泉くん、お誕生日おめでとうっ!それと今日一日みんなで無視してごめんなさいっ!」 「言いたいことはそれだけか」
とりあえず目の前でかわいく舌を出してなんだかんだで楽しそうに笑っているちっこいチョコレートの化身みたいなマネージャーに、でこぴんをした。「あだっ」と、二、三歩よろめいて、それから「怒られちゃったよっ」と、後ろに下がった。そいつの背後にはそれぞれ、そいつと似たような表情でにやにやしながらオレのことを見てくる連中、つまり浜田と三橋と田島と小雀と園田と霞野が並んでいるわけだ。そして机に置かれたでっかいケーキとチロルチョコ16こ、パンにヘンテコなカメレオンのキーホルダー(これのどこが笑いだ)、そして丁寧に包装されてあるB3サイズの包みは多分フォトアルバムで、さっき述べられた通りに、オレへのプレゼント達らしい。割り当てると、ケーキがいま額をさすってるそいつの発案でみんなが作ったやつで、キーホルダーが浜田ので、フォトアルバムが園田ので、パンが三橋、チロルが田島発案のみんなから、小雀のがこの部活(ミーティング)帰りのサプライズパーティで、霞野からのプレゼントは『一日ハブもどき』ということらしかった。ふざけんな。特に最後の。そしてそんなものを採用するお前たちは馬鹿か。
「あう、み、みんなばかー……やっぱり怒られたじゃんかー……痛いよー」 「えー泉おこってんのー?」 「ハブさみしかったー?」 「嫌われたかと思ったー?」 「ざっけんなお前ら」
大体、なんで説明をそいつ一人にまかせてお前らは一歩下がった場所から見てたんだと聞けば、「だって泉ってこのこに弱いじゃん」とまあ、なんだ、けたけた笑う小雀が普通にむかつく。つーか本気で今日一日、目が合っても話しかけても表情ひとつ変えずに無視してきたこいつらの演技に気付かないまま真剣に、え、オレなんかした?とか悩んでしまったことが悔しい。まあ三橋なんかはいつも通り、キョドってたけど。怪我をしたわけでもないのに「でこぴん痛かったから」額にバンソウコウを貼るアホなんかはムチャクチャ、霞野ばりに無表情だったから本気で嫌われたかと思ったし。
「ふざけんなお前ら、全員謝れ、バカ」 「えー、別にいーけどさぁ」 「ったくもぉ、うちらが泉のことそう簡単に嫌いになるわけないじゃんねえ?」 「なー!アイしてるって!」 「う、ひっ。い、いずみく、んは、オレの、友達だっ」 「あたしらも泉のことフツーに好きだよねえ?ほら、今回は泉に、日頃の毒舌の感謝を込めて、みたいな。ねえ錏?」 「少なくとも私は、そういう意図だった……その方が……ロマンチックだ……」
「……………」
どいつもこいつも、たかだかオレの誕生日なんかで、なんでこんなにいい笑顔になってんだよ。浜田なんか留年のくせに。マネジなんか星柄バンソウコウのくせに。三橋なんかビビりのくせに。小雀なんか未だにスリッパのくせに。田島なんかチビのくせに。園田なんかパパラッチのくせに。霞野なんかでこ星人のくせに。
「あの、泉くん。ほんとに、怒っちゃった?ごめんね、本当、嫌だったよね」 「……無視は、やめろな」 「……はい」 「もう怒ってねえよ」 「……ほんと?」 「まずケーキ食おう。そんで、チロルは8人だから、一人2こずつな」 「うんっ」
不安げだった表情が一転、元の純朴で素直な笑顔に戻ってすぐ、「せーのっ」って声で、同じクラスのバカ達から一斉に誕生日を祝われてみると、まあ、目がギョロギョロ動くヘンテコなカメレオンだって、視界に入ると口元が弛む要素となってしまったのだから、とんだサプライズの一日になっちまった、と溜め息をついたつもりの息は腹からこみあげてくる何かで少しふるえた。
泉くんの生誕をこっそりと祝うミーティング後の話
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