「利央くーん!」 「あれぇ?なんでここに?」 「の、ばかー!」 「ええぇ!?」
ばかって言った方がばかなんだぞお!って言いたいトコだったけど、生憎この子はばかじゃないんだった。思いとどまったところでオレは今しがたくぐってきた門と、建物をよおっく見る。じろじろと見た。うん、ここは間違いなく、オレが通ってる学校で、桐青高校だった。じゃあなんで西浦のこの子がここにいるんだろう、と首を傾げると迅とかが「誰その子ー?」「あーあ利央泣かしてらー」とか、うっさいなあもう!ってえええええ、泣いてる!?見るとボロボロと泣いてた。ほんとに泣いてた。
「えっオレぇ!?なんかした!?」 「ううう、利央くーん……」 「は、はァーい……」 「ばか……」 「えっ、ご、ゴメン……」 「うわあああん!」
泣かないでよぉ、と言ってふわふわの頭を撫でてみても全然泣き止まないこの子を、一体オレはどうすればいいんだろう。っていうかなんでここにいて、なんで泣いてるんだろう。オレの背後で興味深そうに眺めたりはやしたりするチームメイトを追い払って、正門の前に2人っきりで、オレ達はいるんだけど、この子が何だか知んないけど悲しそうに泣いているから、オレはちっとも嬉しくない。
「ねー、なんで泣いてんのぉ」 「うええ、り、利央くんが、悪い、んだ、よっ」 「……オレ、何かした?」 「ばかっ」 「うう、ごめんなさぁーい……」
なんか分からないのに謝るオレは、これだから準サンにいじめられるんだろうなあ。そりゃ兄ちゃんみたいにイジワルになりたいとは思わないんだけど、もーちょっと、頼りがいのある男になりたい……来年までの目標にしよっかなあ……。ぐすぐすと泣いてる様子を見つめているうちに、手に鞄以外の何かを持っているのが見えて、それ何?って思わず聞いたらピクッて肩が反応した。気をそっちに向けると、なんだか甘いにおいがするような気もする。顔を上げて、「これ?」と見せてくるので頷くと、ちょっとムスッて顔をしたけど、涙は引っ込めて「カップケーキだよ」と言った。
「カップケーキ?いいなぁー」 「利央くんにあげるやつだもん」 「……へ、オレ?」 「今日利央くんの誕生日だもん」 「えっオレに!?知っててくれたのぉ!?」 「知らないもん。利央くん教えてくれなかったから。でもひじりちゃんが教えてくれたんだもん」 「……………」
どうやらそのことで怒ってるらしかった。聖ちゃんって、確か、あの準さんと渡り合ってたカメラの女の子だったよなあ。どうしてメル友のこの子が知らないのに、その子が知っているんだろう。「ひじりちゃんは、1年9組の情報アンテナなんだもん」凄い子らしかった。
「ごめんって……、だって言いづらくってェ……プレゼントちょおだいとか……」 「なんで利央くんはそんな変なトコばっかり遠慮しちゃうんだよっ!」 「ごめんねェー」 「ううー。もういいよっ。でもそのせいで知ったの今日だから、カップケーキくらいしか作れなかったんだからねっ!」 「ええーっ、十分嬉しいよぉ!」 「え、ほんとう?」 「ホントホント!」 「……そう?」
あ。なんかちょっとおさまってきたらしい。何度か頷くと、「じゃあ、はい」と手渡してくれた。え、なにこれェー、すごい嬉しい、かも……。
「お誕生日、おめでとっ」 「ありがとお!」
でも本当はもっとちゃんとしたのを食べてもらいたかったなあ、と残念そうに頬をふくらませるかわいい子に、今度また楽しいことを喋りながら甘いケーキを食べに行きたいと思った、誕生日の夜。
利央くんの生誕をこっそりと祝う部活帰りの話
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