ぴろーん。チャラララー。がしゃがしゃがしゃ。トゥルル。ぶおーん。ギュルギュルギュルギュル。どかーん!ぱりーん!ばこーん!がしゃーん!どっかーん!キャー!ばんばんばんばんばんばん。ドコドコトン。はいちーず、ぱしゃ!チャララッララー。うううううううう。ズンチャカチャ。ぎゃああああああ。ズガガガガガガ。どしゅどしゅどしゅどしゅどしゅ。ぶおおおおおお、キキーッ。どっかーん。じゃらじゃらじゃらじゃら。プルルルルルルルル。ういーん、がちゃ、がちゃ、がちゃん。ピロロロロロロロロ!ずさささささっ。ざりざりざりざり。どかどかどかどかどか。えいやっ。あちょー。せいっ。おりぁ!ばきぃっ。ドガッ。うごぉっ。ちゃららららーん、ウィナー。ぼこぼこぼこぼこぼこぼこ。でこでこでこでこでこ。ギュオオオオオオオン。
「…………ここですか?」 「おう」
頷くと、隣のちんまいのはパチパチと目を瞬かせた後に、やっぱり分からない、という風に首を小さく傾げた。小さい体によく似合った動作だった。斑が不思議そうに指さしているのは、いわゆるゲーセンで、日本の子供ならば知らないヤツなんていないだろうというそれを不思議そうに首を傾げて指さして「なんですか?これ」とか言う斑はもしかすると日本人じゃないのかもしれない。そういやこいつアメリカにいたんだっけ?中学では噂になってらしいんだけど生憎オレは自分のことで手一杯だったのであんまり憶えていない。
「なんだか中から色んな音が聞こえますね……1秒間のうなりは何回になることでしょう」 「知らねえよ。つか、入るぞ」 「えっ、こ、この中にですか?」 「ったりめーだろ、そのために来たんだからな」 「えっ、え、でも、」 「いーから!」
親指と中指がくっつく位に細い手首を掴んで中に入ると、店内のBGMだけじゃなくて色んなゲームの効果音とか、それらに掻き消されないように比例してでかくなってる人の話し声とかで、慣れてない斑は「ぎゃっ!」と叫んで耳を塞いだけど片手はオレが掴んでるから完全には防げない。つーか、両耳ふさいだら、オレの声まで聞こえなくなんだろうが。
「すっ、すごい音……」 「あー!?聞こえねーよ!」 「ここで!なにするんですか!?」 「ゲームに決まってんだろ!ゲーセンなんだから!」
こんな状況とはいえ、しかしこいつのこんな大声を聞いたのは初めてだな、とか思った。片耳を塞ぎながら、まだやいやい言ってるのを軽く無視して、とりあえず空いてるゲームから片っ端に連れ回してやろうと、2階(ボーリング場)への階段に数段上って、辺りを見渡した。
「お、ストリートファイターある」 「なんですかこれ?」 「格ゲーだよ。おら、お前向かい座って100円入れろ」 「え?格げ?なんです?」 「あ、おれ隆にしよーっと」 「は、あ、キャラクター?なんかコワモテな人ばっかですね……あ、女の子もいる」 「春麗な。チャイニーズ」 「チュンリー?じゃあわたしこれにします。わたしも今日お団子ですし」 「じゃースタート押して」 「はあ。で、これで何するんですか?」 「戦闘スタート!」 「……ええーっ!ちょ、蹴らないでっ!殴んないで下さいよ!チュンリーちゃんは、女の子なんですよっ!?」 「うっせ!そーゆうゲームだ!」 「えっ、えっ、あ、そんな、ひどい、殴るなんて、あっ、これ、エイチピー?減っていって……」 「うしゃしゃしゃしゃしゃ!くらえっ、波動拳!」 「えっ、ビーム!?ビームが出た!ジ、ジャンプでかわせチュンリーちゃん!」 「こりゃーあと5秒もねえな」 「ひ、ひどいですよ、わたしルールわかんないのに……とりあえず乱打!」 「うりゃりゃりゃりゃりゃ」 「…………と、とおーっ!」 「あ」 「あ」 「……そこで必殺技引き当てるか普通」 「隆さん動かなくなっちゃった……」
「先輩、これ、なんですか?」 「あ?あー、やるか?」 「どうやってです?」 「そこの穴からワニが出てくっから、そのハンマーで叩きまくんだよ」 「え、叩くんですか……」 「はい100円入れたー」 「ぎゃあ!ワニが!」 「叫ぶより叩け!」 「うわー!こわいー!」 「の割にはバシバシ叩くなお前!」 「────わ、74点っ!」 「へ、あめーな。ちょい貸してみ」 「…………わあ!」 「うぉらああああああ!」 「96点!」 「ナイスおれ!」 「ナイス反射神経!」
「くらっしゅ……?」 「レースゲームな。ハンドルあんだろ?ほら、乗れ」 「え、これ2人で競うんですか?」 「コンピュータも入るぞ。………おら。200円投入」 「っわ、傾いた!」 「ハンドル握れー。ちなみに負けた方が次のゲームおごりな」 「え!」 「おらおらおら、とっととそこどけ、道空けろやノロマ!」 「先輩キャラが……ってきゃー!横にぶつかる!クラッシュしちゃうー!」 「間違ってもオレにぶつけんじゃねーぞ!」 「ええええブレーキってこれ!?」 「それアクセルだアホ!!!」 「あ、あ、あ、ハンドルがひとりでに回って…………きゃーっ!」 「うわーっ!」
「……で結局ワリカンかよ」 「クラッシュしちゃいましたねっ」 「……ま、いーけど。────ん。他はケッコー待つみてーだな」 「あ。先輩、あれならわたし、知ってますよっ。かなめちゃ……友達が、よく撮ってます」 「あ?どれよ」 「ほら、あそこ」 「プリクラじゃねえかよ」 「?そうですけど」 「オレにプリクラ撮れってか?」 「……はっ。あ、あの、わたし、その、すみません、きょ、今日、たの──楽しくて、ち、調子乗っちゃって────」 「いやそこで元に戻んなよ……ってか、楽しい?」 「へ、」 「今、楽しいかって聞いてんの」 「……た──楽しい──です。こんなとこ、来たことなかったし、ドキドキして──わくわくします」 「……そのドキドキはゲームに?」 「はい?」 「や、ナンデモ。」
「う、うわあ!機械が喋ります!」 「『撮影モードを設定してね』とか言ってっけど、どれがいい?」 「『仲良しモード』、『恋人モード』、『ごちゃまぜモード』とありますね……どうしましょう、先輩とは仲良しでも恋人でもないので『ごちゃまぜ』でもいいですか?」 「……おまえ結構ヒデーヤツだな」 「えっ?あ、美白設定美白設定」 「ちょ、やめろ!オレまで白くなったらキメーだろが!白くすんな!」 「えっ!だ、だって女の子ですもん!」 「知るかオート!」 「勝手に押したー……!あ、指示出ましたよっ。『台に登ってドアップモード』ですって」 「う、お──狭いなコレ」 「『カメラに向かってピースしてね!』ですって──あ、カウントが……」 「ピース!」 「ピース!」
「ちゃんと半分に切って下さいねっ」 「切るよ、ったく──あー、オレまっすぐ切んの苦手だわ。テキトーで」 「きゃあ!ナナメ!ちょっ、わたし切りますからっ!」 「切れっつったのお前だろ!?」 「手を離せノーコン!」 「てめえオレのことそんな目で見てたのか今まで!」
「……うん、まあ、いいでしょう」 「ったく、女ってのは、細けーなあ……────お。ポップン空いた」 「ポップン?」 「ポップンミュージック。音符に合わせてボタン叩くんだよ」 「また叩くんですか?」 「今度はワニは出ねーよ」 「曲、何にしましょう」 「お前おーつかあいな」 「え、また勝手に……って、ぎゃあっ!音符が!」 「初心者にさくらんぼはムズかったか」 「ていうか、おーつかあいなんてわたしに似合いませんでしたよ──あ。先輩はじゃあ、ソウルド・アウトのDream Driveで!」 「は?知らね……って、ちょおおおおおお前これヒップホップじゃねーか!」 「が、頑張ってくださいっ!」 「出来るかアホー!」
「これはゾンビを殺すシューティングゲーム。たまにフェイクで人間出てくっけど、人間打ったらゲームオーバーな」 「うりゃあああああああ」 「………………早っ!」 「パーフェクト!」 「お前こーゆーの結構好き?」
「あ。先輩、あれ、なんですか?」 「あ?あー、お前、あれも見たことねえの?UFOキャッチャーだよ」 「はわー……──ぬいぐるみがいっぱいあります」 「あっちにはぷーさんもあるぞ」 「かわいい!」 「やるか?ほら、このボタンでタテヨコ動かすんだ」 「…………む。行き過ぎちゃった」 「今のはもーちょい手前だったな」 「……あっ!掴んだ!」 「おお!」 「……のに、落ちた!」 「おお!」 「…………うう」 「取れねーなあ、お前」 「…………こうなったら、全財産を」 「破産すっぞ。貸して。こーゆーのはな、こーすんだよ!」 「あっ、ぷーさんを2つも!」 「さすがオレ様」 「先輩、あっちの、魔法使いのコスプレしてるぷーさん……」 「コスプレ言うな。ん───ほら」 「あっ、あっち、王子さまのみっきーがいます!」 「どれどれ」 「おひめさまのみにーちゃん」 「ほうほう」 「狩人のどなるど!」 「よしよし」
……………。 ……………………。
そんなわけで。
こんもりと大きく山を描いたぬいぐるみやマスコットなどのいわゆる景品達が、それらを嬉しそうに抱えている斑の視界を覆っているので、『お前が取れって言って取ったもんなんだから自分で持てよ』と言ってはいたものの、このままそこらへんを歩いてみたんじゃあ前が見えないせいでまっすぐ歩けずにどっかぶつかるか、あるいは道の凸凹がわからずにひっつまずいて転ぶか、とにかく怪我をするかもしれないということで仕方なく前言を撤回し、その山をせめて危険なく歩ける程度になるくらいには持って運んでやろうと思ってはみたが、けどよく考えてみたら前言を撤回するのはなんかカッコ悪い気がするし恥ずかしいし、何より昨日までは遠慮なくこいつの頭や身体を殴ったり蹴りを入れたりしていたオレが、ぶつかったり転んだりして怪我をするかもしれないという心配をしてしまっている自分というのがムズ痒くて昨日までの自分が情けなかったので、そのまま悶々と思想しているうちに前が見えない斑はすっころんで膝をすりむいた上に景品の山が崩れて落ちてしまったためにオレは斑をおんぶしてプラス、その山を丸々抱え、斑の指示の元にようやく帰宅する事に成功した。家に上がると母さんが酷く驚いてたような気がするけど、カーペットの上に山を移してリビングのソファに斑を捨てると、救急箱を持って来てくれた。
「どうしたの斑ちゃん、膝すりむいちゃってるわ」 「え、えへっ……」 「あれで前見えなくてこけやがったんだよコイツ。あー、サイアク。チョー重かった」 「す、すいませ……」 「元希!いっつも怪我させてるアンタが言うんじゃないの!」 「っせーな!今日は違うんだよ!」 「はあ……で、このぬいぐるみは?」 「ケーヒン」 「景品?」 「あ、ゲ、ゲーセンの、UFOキャッチャーの景品ですっ」 「まぁ、これ全部?すごいわ斑ちゃん、ゲームも上手なのねえ」 「ちげーよ、それ取ったのオレ」 「わたし、取れなくて。それで、先輩が取ってくれたんです」 「お前ヘタすぎんだもん」 「だ、だってやったことないですもん。わたしだって、れ、練習すれば……」 「どーだか」 「……むぅ」
鼻で笑ってやると、ちょっとむくれたようにする。ふと母さんを見るとさっき見た時よりもびっくりしたような顔をしていて、怪訝に思ってると「うわー元希が斑ちゃんと仲良くなってるー。何の前触れだろー」姉ちゃんが口出ししてきたので睨んでおいた(けど多分効果はない)。再び母さんに目をやると、ソファに座ってる斑の膝を手当てしてやっていて、斑はあてがわれた消毒液に痛そうにしてたけど、姉ちゃんと仲良さげに会話している。
「ふーん、そっか、よかったねー斑ちゃん。見事にディズニー増えたね」 「はいっ。特にですね、この、コスプレしてるぷーさんが可愛くてっ」 「コスプレとか言うなよ……。まーでも、それにしてもすっげー数。姫とか王子とかあるし、これで白雪姫でも演じれそうな勢いね」 「ねーちゃんはすぐ恋愛モノだな。せっかく動物もいんだから桃太郎とかでいーだろ」 「いーじゃん女なんだから仕方ないでしょー?どーせ猿や犬や雉や鬼にロマンなんて見出せやしないっつの。だったら恋愛モノでいいじゃない。ねえ母さん?」 「女の子の憧れよねぇ。シンデレラに白雪姫に、眠りの森の美女。誰だって小さい頃は、王子様が迎えに来る日を夢見るものなのよ!ねえ?斑ちゃん」 「コイツにそれ振るか?」 「なによ、あたしが憧れてんだから斑ちゃんだって憧れるわよ!ねっ、斑ちゃん!」 「……………」 「ん?」 「斑ちゃん?」 「どーしたの」
「白雪姫って、何ですか?」
沈黙。
しばらくのち、 え マジで?と、 姉ちゃんが呟いた。
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