振り連載 | ナノ



 04 お勉強は、ゲンミツに大事!



「オレらゲンミツにレベル上がってるよなー!」

リンゴをシャクシャクと丸かじりしながら、ゲンミツにを繰り返すのは冒険家の田島くんである。彼はすでに『一人3つ』という禁を破り5つもパンを食べ、そしてデザートとして現在3つめのリンゴをとても美味しそうにかじっている。沖くんが「斑。パン、オレの食べな?」と言ってくれるけれど、首を振って遠慮した。沖くんだって、ずっと頑張っていたのだからお腹がすいたはずである。田島くんが余分に食べたパン2つの分、わたしは丸いコッペパンをひとつしか食べられないことになったものの、リンゴならキロで買ったので大量にあるわけだしとツヤツヤと赤いリンゴにかじりついた。シュワ、と酸味が舌ににじんだ。

「相内に買ってもらった傷薬、あと3つぐれーしか残ってねーや。わりぃな」
「くすりは使うものですからねっ。また買えばいいことです」
「そーだぜ花井!モンスター倒したからお金いっぱいもらったし!」
「もうひとふんばりして、探索組と合流したら篠岡にオレ達のレベルがどーなってるか見てもらわなくちゃね」
「だなあ。もー結構ケガしにくくなってきてるんだけど」
「モンスターはまだ全部レベル1だからなー。こん位ヨユーで倒せるようになんなきゃいけねーよな」
「相内!オレ、一振りで倒せるよーになったんだぜ!」
「えっ!すごいすごいっ!」
「相内!オレは、まだだけど、頑張ったんだよ!」
「うんっ!水谷くんも田島くんも、みんなもすごいねっ!」

阿部くんは確実にまだレベル1であるものの、他のみんなはそれぞれ水魔を相手に頑張ったらしく、薬を塗っていないところに擦り傷が出来ている。水谷くんは「オレ、手からバラ出せるんだよー」と楽しそうだし、田島くんは満足げ。花井くんはきっちりと経験を踏んでいそうだし、泉くんなんか凶器でリンゴを刺して口へ運んでいる。巣山くんは走ってくる時、足音がしなかった。おなかいっぱいー、と食後いきなり横になるみんなに笑い、千代ちゃん達もちゃんとご飯を食べれているだろうかと思った。


「えーっとね……田島くんはレベル7になってる」

宿屋にて。千代ちゃん達は島の中を色々と探索してきたらしく、始めのステージで得られる情報をちゃんといくつか拾ってきた。冒険の書とわたしが勝手に名前をパクった千代ちゃんの本に、記録を書き留めていく千代ちゃん。記録者である彼女の目には、田島くんのパーソナル・ステータスや数値が映っていることだろう。「それっていーの?わりーの?」首をもたげる田島くん。千代ちゃんが花井くんを見てレベル5だねと言うと、田島くんは「じゃあ、いーのか」と頷いた。花井くんは何だかやっぱりいつものように、複雑そうな表情でそれを受け止めた。泉くんはレベル4、巣山くんはレベル5になったばかり、水谷くんはレベル3だけれど、あと少しで4になるらしい。騒いでいるみんなの中から、泉くんがちょっとがっかりしたようなカオをして抜けてくる。水谷くんに手品で出してもらった、オモチャのナイフをくるくるさせている。

「あー……もーちっと上げてーんだけどな。レベル上がると、次に上がるまでが長くなっかんなー……」
「それは全てのRPGに共通だねっ!」
「相内はレベル何なの?」
「んー……。なな」
「高っ!田島と同じじゃん」
「密度が濃かったからねっ」
「まー一人で戦ったわけだからな……でも、もーそんなにはなんねえから」
「うん?」
「オレらも一緒に戦うぞーってイミ」

な。と覗き込んでくるので、うん。と頷く。これぞチーム。団体。集団。グループ。野球部に入って、わたしにも協調性というものが少しでも身についただろうか。何とかこの世界から脱出し、かなめちゃんに会いたいものだ。「アホみたいなツラだな。リンゴもーらい」ううむ、ハンター・イズミめ。みんなもこちらにやって来て、いつものように、円陣。

「ここまでレベル上がったら、もーこの島出れる?」
「んー……そうだね、多分、大丈夫」
「やっりー!オレ魔王倒したい!」
「え、魔王いんの?」
「アベじゃね?」
「今発言したヤツどいつだ」

水谷くんはササッと三橋くんの影に隠れた。ともあれ、この近辺にいるモンスターはレベル1から4の間と設定しているので、これくらいなら歩いていくうちにも倒していって経験を積めるので、無事に次の村へたどり着くことが出来るのではないかと思ってそう伝える。途中西広くんが「僕はポケモンで、レベル99になってから四天王に挑むんだけどな」とか恐ろしいことを漏らしたけれど、それはみんな触れず、普通に明日の朝出発することとした。

「……あ。そうだ、今日泊まるんなら、部屋もうひとつとらなきゃだねっ。千代ちゃんとわたしの分。千代ちゃん、一階降りようっ」
「うん!」

いくら(割と)仲のいい野球部だといえど年頃の男と女、とかいうやつで部屋はふたつである。普段の扱いが扱いだけにわたしは別にアレだけれど、千代ちゃんは可愛らしい女の子、であーる。「でもよかった。斑ちゃん、気付いてないのかと思った」「まさかっ!わたしだって、女の子だよっ!」正しくは気付いたのではなく思い出したのであるけれど。先輩のおねえさんがよくわたしに言い聞かせてくれたことがあった。今でも、ポツポツある。カウンターに行って、宿屋の主人さんにもう一部屋、みんなの隣の部屋を借りた。ベッドは変わらずひとつだったので、千代ちゃんに譲った。レディーファースト、である。いくちゃん、わたし、やったよ。えすこーと、出来たよ!猛烈にいくちゃんに抱き着きたい気分になった。

「早めにお風呂入っちゃおっか」
「うん。でも先に夕飯食べなきゃ」
「そういえば、千代ちゃん。ごはん食べる場所、見つけてきてくれた?」
「あったよー、レストランいっぱいあるからビックリしちゃった」
「モン・サン・ミッシェルもね、観光地でレストランいっぱいあるんだよっ。バスもいっぱい、停まってるんだよっ」
「へええ!」

ちなみに千代ちゃん達はお昼ごはんを市場で買って、広場で食べたのだそうだ。「書いてある文字がわからなくて困ったんだけど、お金は西広くんがササッと出して払ってくれて。助かっちゃったな」微笑み、千代ちゃんが言う。臨場感を出そうとこの世界の文字をフランス基準にしたのはやっぱりまずかったかな、と今更ながらにおもった。いや、言葉がわからないのは困るから、会話は日本語で行われるのだけれど。お金もユーロにしているわけじゃないから大丈夫かなー……と思ったわけである。でも、レストランのメニューとか、みんな読めないかも。ひじりちゃんも、そこんとこ、直してくれたらいいのに。そして西広くんは勤勉な、学生の鏡だと思った。

「千代ちゃん、お隣遊びに行ってくる?日が落ちるまで少しあるみたいだし」
「うーん、そうしよっかな。斑ちゃんはどうするの?」
「わたし、ちょっと寝たいかなっ。製作者のわたしが言うのも何なんだけど、疲れちゃった」
「わかった。じゃあ夕食の時は呼ぶね。おやすみ」
「おやすみなさいー」

パタンと閉まる扉と同時にベッドに倒れ込んで、仰向けに天井を見つめた。ふう、と息を吐いた。ここに来てからまだたったの数時間しか経っていないというのに、目の前が霞んでくらくらしそうな感じだ。みんななんて、きっともっとわけわかんない思いをしているだろうに。いつもと変わりないように見えた千代ちゃんの笑顔が目に焼き付いていて、少し情けなくなった。目を閉じて、再び扉が開かれるその時まで眠ることにしよう。きっと、疲れているだけだ。


des avocats aux crabes,
une salade de tomates,
un steak frites,
une omelette aux fhampignons,
une soupe de legumes,
du boeuf aux carottes,
de la salade,du fromage,
de la tarte auw pommer,
de la mousse au chocolat,

エトセトラ・エトセトラ。
というわけで。

「さあさあ!みんなっ!どれでも好きなものを注文してねっ!」
「できるかー!」

突っ込まれてしまった。
心外だった。

「これでもまずはみんなが食べやすいようにって、家庭料理のお店を選んでもらったのに……」
「まず読めないからオレら」
「相内って、気を遣うところが違うんだよね……」

失礼な。とは言えずに、注文を取りにきた店員さんに商品の名前を伝える。大人数いるので一通り注文していくと「これがそーなの!?」「読めるかー!」などの声がかかって。かかって……。なんか……。

「……ううっ」
「わー!斑!」
「泣くな!」
「言い過ぎた言い過ぎた!」

千代ちゃんに頭を撫でられて、どうにか涙をひっこめた。

「……にしても。金までユーロにしてたら、お前マジぶっ飛ばすとこだった」
「ユーロというのはEUに加盟している国の中でもアイルランド・イタリア・オーストリア・オランダ・ギリシャ・スペイン・ドイツ・フィンランド・フランス・ベルギー・ポルトガル・ルクセンブルグの12か国の間で使われる統一通貨のことなんだねっ!」
「生き字引かお前は!?」
「ユーロ紙幣は5・10・20・50・100・200・500ユーロの7種類で、コインは1・2・5・10・20・50ユーロセントと1・2ユーロの8種類。ちなみに1ユーロは約134円だけれどこれは前に調べたっきりです。為替レートは日々変化しますから面倒なので無難な金貨銀貨銅貨にしました」
「だったら文字も日本語にしろや!」
「嫌です。せっかく外観モン・サン・ミッシェルなのに。後々ロワールとかグランムーラン・ド・パンタンとかシャトー・コンブールとか出て来るのに。雰囲気出さないと」
「…………」

阿部くんが黙った。
ツッコミ疲れかもしれなかった。