■ 面接とお話
「……本日は遠いところからはるばるお越しいただいて、ありがとうございます」
「いえ。関西を出ることがあまりないので、小旅行気分で楽しませていただいてます」
「そうですか。東京へは新幹線で?」
「大体が夜行バスを利用しています。結構色々な会社のバスを試しているので、この就職活動で随分と詳しくなっちゃいました」
「ほう。では、どのバスがオススメですか」
「そうですね……主観ですが、びっぷライナーが一番使いやすいと思います。朝早くと夜遅く、無料で利用できるラウンジがあって、くつろげるので。マッサージ機までついてて驚きました!あと、社内にハンガーや枕があったり」
「それはいいですね」と笑顔で頷く面接官の様子に、まずは出だし上々だ。と心中で握り拳。均等に間隔を空けて学生五人と、面接官三人が向かい合い雑談混じりに行われる、とある企業の集団面接(第二次選考)。今日は東京駅から地下鉄で四駅のところにある中小広告会社まで足を運び、こうして健気に就職活動中。
「今日も夜行バスでお帰りに?」
「あ、いえ。東京で行動することが多いので、今は知人の家にお世話になっています」
――正確には、『知人になってもらった知らない男』であるが。嘘ではない。断じて。
「では、今はずっと東京に?」
「はい。週に一度はアルバイトで地元に戻っていますけど」
と、そこで「確か斉藤さんは洋菓子店でアルバイトを――」面接官の一人が提出していた履歴書を確認し、こちらを窺うので「はい。百貨店の洋菓子店で三年、販売員として勤めています」と繋げる。
「もともとケーキが好きで……あ、食べる方なんですけど。オススメトークとか、お客様へのお伝えの仕方を考えるのが大好きです。あと、ケーキのディスプレイをデザインしたり」
「では、私に何か一つ、お店のケーキをオススメしてみて下さい」
おお、そうくるか。
「そうですね……」と数瞬思考し、顔を上げまっすぐ面接官を見据える。
「ちなみに、普段ケーキはお召し上がりになりますか?」
「いえ、甘いものはあまり食べません」
「そうですか。わたしの個人的なオススメとしましては……やはりショートケーキですね。わたしは生クリームが苦手だったんですけど、当店のショートケーキの生クリームは口当たりなめらかで甘ったるくなくて、わたしはこれを食べていちごショートが好きになった!て位に食べやすいケーキです。イチゴも上だけで丸三個乗っていて、開店当初から当店でずっとナンバーワンの定番ケーキです」
「では、私はどうでしょう。果物は柑橘類が好きで、ケーキもよく食べています」
「小島さんには、フルーツタルトをお勧めいたします。当店のフルーツタルトはグレープフルーツやオレンジなど柑橘も合わせた七種類の果物をたっぷりと乗せて、生地にはバナナペーストを使ったクリーム、土台には食べ応えのあるタルトを敷いています。あえて土台の甘さを抑えてクリームとフルーツの調和を図る、特徴のある味で数多い他店のタルトにも劣りません。ご満足して頂けると思います」
「私にも一つ、お願いします。甘いものはあまり好きではありません。果物も苦手です」
「佐藤さんには、ダブルチーズケーキはいかがでしょう。二種類のチーズケーキを二層仕立てに致しまして、周りを砕いたサブレ生地で囲んだものでございます。サブレにチーズケーキがとてもよく馴染んで、しっとりとなめらかな口触りを楽しんで頂けます。ふんわりと軽い甘さですので、甘いものが得意でない方や男性のお客さまにも多く好評を頂いているケーキでございます」
……途中から完全に販売員の言葉遣いになっちゃったけど。
再び頷き合う面接官を見て、まあ結果オーライだ。「ありがとうございました」と礼にこちらも笑顔で返し、他の学生の話に耳を傾けながら次の発言の機会を待った。
「あー終わったあー!」
選考終了後。
エレベーターを降りて企業の自社ビルから出、他の学生を振り返って「お疲れさまでした!」とお辞儀。二時間十五分(話が長引いた)もの間緊張を共にしたという事実がわたし達就活生同士の親近感を生み一体感を育む。東京駅まで帰り道が同じ人が多く、雑談しながら駅まで連れ立って地下鉄に乗り込んだ。
「……にしても斉藤さん、関西から来たんだよね」
「あ、うん」
「ポイよねー発音とか!」
「やっぱわかっちゃう?」
「でも可愛くていいよね関西弁」
「え、そう?みんな地元なんだよねー、わたしはそっちのが羨ましいけど」
「ええ?どうして?」
「広告会社の中小企業ってコッチ多いじゃん。わたし今受けてるところほっとんどコッチだもん。旅費とかもう余裕で死ねる」
「ああ、友達?の家に寝泊まりしてるって言ったっけ」
「俺も関西行く時あるけど、タダで泊まれるっていいよなァ」
正確には以下省略。
知人にしても友人にしても、それが全てをブッ壊したい願望を持つ根っからの中二病全開の思春期満載華の男子高校生だとはさすがに想像もつかないだろう。苦笑して、話を流す。東京駅で数人と別れ、数人は山手線で新宿まで帰る途中に下車し、一人になったわたしはポケットからMP3を取り出して電源を入れる。イヤホンを耳に差し込み、軽く目を瞑って一息つく。
『今は知人の家にお世話になっています』
…………。
何とも情けない話ではあるのだけれど。
『助けてやろーかァ?』
――言えるわけない、こんなこと。