■ ケーキとケーキとケーキ
夕飯の買い物もしっかり済ませ、帰宅したわたしをリビングの一人がけソファから迎えた晋助を引っ張ってテーブルに並べた色とりどりのケーキ達をお披露目する。
オダキューで買ったアラカンのクラフティー・オ・フランボワーズ。パン・プディングに木苺を乗せてしっかりと焼き上げたそれは少し焦げ目のついたプディングの黄色と木苺の鮮やかな紅色が食欲をそそる。
伊勢丹で買った、サダ・パリのカシスィエ。チョコレートとカシスというダークで紫を基調としたシックなスクエア型少し大きめケーキ。
そして、同じく伊勢丹、シーキューブのいちごのトルテ!
「ひゃ〜ん……!!」
「幸せそうだな」
「幸せも幸せ、眺めてるだけでも幸せだよっ!――いや、もちろん食べるけどね!?」
クックッと喉で笑みを殺すような、静かな笑いに、浮かれまくる自分が年長者として恥ずかしいような気がしないでもないのだけれど。でも嬉しいものは嬉しいし、幸せなものは幸せで、頬だって弛むのも詮無いことであるとわたしは主張する。
「あのねっ、でもねっ、ヴィタメールのオペラとかオッジの生チョコケーキとかキハチのトライフルとか、百貨店の中でも買った店でも、他にもいっぱいあってねっ、ホント夢のようだったの!迷いすぎて幸せすぎて贅沢すぎて死にそうだった!」
「ククッ……そうかい」
「うん、新宿スイーツ最高!!」
「……なら、次の三次選考に受かった時、また買えばいい」
「……えっ……いっ、いいのっ!?」
「三次は集団面接か」
「う、うん。そうだと思う。二時間もとってて、メールには『斉藤さんのことをもっと深く知りたいと思います』ってあったから」
「手前の苦手とするモンじゃねーか。しっかり気張れよ」
「…………!!!」
晋助が、デレた……!
と、声に出しては言わないでおく(途端に不機嫌になるため)。「ありがとう!!!」と両手を握ってブンブン振りまくれば、少しして振り払われたけれど。
「……つーか、四個買わなかったんだな。せっかく許してやったってのによ」
「ああ。これさぁ、カシスィエ。ちょっと大きいでしょ?大体二三人用の大きさなんだけど。これ買ったからその分一個ガマンなの〜」
「ほォ。四個も五個も変わんねェと思うがな」
「じゃあ五個にしてくれたら良かったのに」
「クク。本気で太りてーらしいな」
「それに、無制限に許したら、晩メシまでケーキにされそうじゃあねーか」いくらわたしでもそこまでしないよ……と断言できないのが悔しいところである。なにせわたし、晋助に拾われるまでは滞在した素泊まりのホテルで夕食抜く代わりに百貨店スイーツ買って食べてましたから。
「で、それ今から食うのか」
「えへへ。一つはデザートにとっとくの!だからー、えっと……どれにしようかな〜」
決めた。カシスィエはデザートに食べる!だってこれ、絶ッッッッッ対おいしいもん!いや全部おいしいけど!わたしの舌を甘く見んな!?「誰も見てねーよ」と静かな声が返って来た。どうやら口に出していたらしい。
「メシ。おかわり」
お茶碗を出してくる手から恭しく受け取りスキップでキッチンまで駆けた。今日の夕飯も、なかなか晋助の口に合ったということだろうかとしゃもじを手に炊飯器のフタを開ける。良かった。料理、得意でホントに良かった!でなければ、ここまでの待遇をもらえたかどうか分からない。いや、わたし的には最悪寝るところとスマホ充電するプラグだけ貸してもらえれば良かったんだけど。そう思うと、いや思わなくても、かなり待遇よく住ませて頂いているわけだ。
「……ふふふー」
「気味が悪ィな」
「えへへー」
「本格的にガタがきたようだな」
「あとでデザートも出すからねえ」
「あ?」
「二三人用だっつったじゃん。……あのケーキね、男の人に大人気なんだって。そんなに甘ったるいケーキでもないだろうし、晋助でも食べられるんじゃないかと思って」
「つまり、俺にも食えってか」
「うん、ふふ。一緒に食べよっ!」
「…………」